小松基地航空祭2014 パイロット ~ F-2帰投

石川県小松市 航空自衛隊小松基地 小松基地航空祭 (9/20)

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ブルーインパルスの展示飛行が終わると、
基地内は一斉に動き出す観客でにわかに慌ただしくなる。

見物客の厚い壁が崩れ
ようやく見通しが効くようになってきたエプロンの一角では、
他の基地から飛来してきた機体が
帰り支度を始めている。




F-2B (B=複座型)
機番:83-8134
登録:2008年1月
青森県 航空自衛隊三沢基地
第三航空団 第三飛行隊 所属

三菱F-2(正面)

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三菱F-2

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三菱F-2

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三菱F-2

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垂直尾翼に描かれる
第三飛行隊のエンブレムは「兜武者」。

第三飛行隊のエンブレム「兜武者」

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パイロットがエプロンに現れる。

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全身を包む濃緑色のフライトスーツ。
その上にはGスーツ、
座席と結束するための各種ハーネス。
太腿に見えるのは飛行計画書だろうか。

F-2のパイロット

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左襟の階級章は「三佐」。
いわゆる少佐、飛行隊の超ベテラン。
飛行班長クラスのパイロットであることが伺える。

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右肩には飛行隊のワッペン。
TACネーム「TWIN」が刺繍されている。

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さらに、パイロットがもう一人。

階級章は「一佐」。
後で調べたら、
第三航空団の航空群司令というやんごとなきお方だった。

三佐の操縦する機体に群司令が同乗するというのは、
普通の会社で例えるなら
部長の運転する車に専務が乗るような事態である。

しかし、これは戦闘機。

そこら辺の黒塗り高級セダンではないことを、この後見せつけられることとなる。

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左腰に見えるパイプ上のものは「Gホース」。
Gスーツに空気を送り込むための部品だ。

戦闘機が急旋回する時、パイロットには強烈なGがかかる。
最大で通常の9倍にも達するGは
身体の血液を下半身に押し下げ、
脳は虚血状態に陥る。

その状況下ではまず、
視界から色彩が失われ、
続いて視野が狭窄し、
最終的に、完全に視力が失われる「ブラックアウト」となる。
ブラックアウトがさらに進行すれば
G-LOC(Loss Of Consciousness by G-force)
とよばれる意識喪失に陥る。

G-LOCで意識を失う時間は数秒だという。

しかし仮に戦闘機が時速700キロ超で飛んでいるならば、
機体は1秒間に約200メートル進んでいる。

もしもその時、機体が地表に向け降下していればどうなるか。

意識回復に要する数秒が
命取りとなるのは言うまでもない。

そこで、パイロットのG耐性を向上させるために
考案されたのが、このGスーツである。

Gスーツは、「着る風船」というべきもので、
血圧計のカフ(環状帯)を大型化したものをイメージすると
わかりやすいかもしれない。

飛行中、機体にGがかかる状況になると、
Gスーツには自動的に空気が送り込まれ、
パイロットの下腹部や脚を強く圧迫する。
そうすることによって、下半身に下がろうとする血液を
強制的に上半身へと押し上げる。

ただ、このGスーツをもってしても耐G能力は1.5Gほどしか向上しないという。

航空自衛隊の訓練を空撮した動画を見ると
戦闘機動中はパイロットの荒々しい呼吸音が絶えまなく聞こえている。
そして時折、そこに苦しそうなうめき声が重なる。

戦闘機パイロットは空の上で
敵機と戦うだけではなく、
Gという見えない敵とも戦っているのだ。

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搭乗前の機外点検が始まる。

F-2離陸前の機外点検

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時計回りに
くまなくチェックを行う。

F-2離陸前の機外点検

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整備書へのサイン。

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搭乗。

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観客に笑顔で応える群司令。
航空祭ならではの光景。

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ヘルメットはパイロットの個性の見せ所だ。
それぞれ、思い思いのペインティングが施されている。

ちなみに、
このヘルメットは「航空ヘルメット FHG-2」。
バイクのヘルメットでお馴染みのSHOEIが生産している。
もちろん非売品。

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キャノピーが閉じられる。
継ぎ目のない涙滴型に加工された樹脂製キャノピー。

胸から上に視界を遮るものはない。
それは身一つで空を飛んでいるような感覚だという。

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飛行前の機器のチェックが
絶えまなく行われている。

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エンジンスタート。

サイレン音にも似たJFS(Jet Fuel Starter)の唸りとともに
エンジンが始動する。

ジェットノズルから吐き出される陽炎の揺らぎが見え始めるのと同時に
辺りにはジェット排気の匂いが立ち込める。

ジェット排気は冬の匂いがする。

冬のお茶の間で
石油ストーブが不完全燃焼した時の
目にチクチクくるような、あの匂いだ。

なぜ、ジェット戦闘機から石油ストーブの匂いがするのか。

それは、戦闘機が灯油で飛んでいるからだ。

F-2に給油されるジェット燃料(規格:JP-4)は
灯油を主成分として、そこにガソリン分をミックスした
いわば「スーパー灯油」だ。
ただ、そこら辺の灯油とは違い、
求められる品質基準は恐ろしく高いそうだ。

F-2エンジンノズル

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エアインテーク(エンジンの空気取り入れ口)からは、
タービンの甲高い金属音が聞こえている。

エアインテークの横に
「REMOVE BEFORE FLIGHT」の赤帯が見える。

「離陸前に取り外せ」と書かれたこの赤帯が取り付けられているのは
金属製の安全ピンだ。

戦闘機には地上で作動させてはならない機構がいくつもある。

例えば、着陸状態でギア(車輪)を収納してしまえば機体は間違いなく壊れてしまうし、
ミサイルなどの兵装を発射してしまえば、それこそ大事故となる。

パイロットの誤操作によって、または機器の故障によって
そのような危険な機構が地上で作動しないよう、
機構の動作そのものをロックするポイントが
機体の各部に設けられている。
そこに金属の安全ピンを差し込むことによって
地上での安全を確保しているのである。

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タキシング(地上走行)開始前、
抜き取った安全ピンを
パイロットに向かって掲げる整備員。

所定の安全ピンは全て取り外しました、というサインだ。

これで機体は全ての機構が完全に動作する状態となる。

金属の猛禽が
爪を出す瞬間だ。

タキシング(地上走行)開始前、 抜き取った安全ピンを パイロットに向かって掲げる整備員

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タキシング開始。
整備員が敬礼で見送る。

タキシング開始。 整備員が敬礼で見送る。

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手を振る観客に向かって三佐がハンドサイン。
さすがにキマっている。

F-2は甲高いエンジン音とジェット排気を残して
滑走路へと姿を消した。

手を振る観客に向かって三佐がハンドサイン

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その数分後、
手持ちの受信機からF-2パイロットの無線交信が聞こえてきた。

ハイレートクライムでの離陸を管制塔にリクエストしている。

ハイレートクライムは
エンジン最大推力で60度から垂直に近い角度で上昇する
これぞ戦闘機というド派手な離陸方法だ。

カメラのグリップを握る手にも力が入る。

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半逆光の空に現れたF-2B。
水平に近い迎え角のまま、フルパワーで加速を続ける。

航空祭の外来機帰投では
見送る観客にパイロットから
何らかのアクションがあることがある。

多くの場合、
観客の前を通過する時に「さようなら」とばかりに
翼を小刻みに振るのが定番だ。

そんな挙動に期待して、
フライバイの瞬間を待つ。

そのとき、F-2の翼が動いた。

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ある程度の角度で今度は反対に切り返す、
そういういつもどおりのバイバイ動作を予想する。

だが、翼は切り返すことなく
機体はそのまま垂直近くまで倒れ、
背中が丸見えになる。

「ナイフエッジ」だ。

F-2によるナイフエッジ

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ナイフエッジは、翼の揚力が失われる横転した体勢を保ったまま
真っすぐ飛び続けるという、高難度のアクロバット技だ。

垂直に立てた翼が、ナイフの刃の如く青い空を切り裂く。

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予想もしない派手な別れの挨拶に
観客からどよめきが上がる。

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再び翼を水平に戻したF-2は、
すぐさま機首を引き起こし、
盛大なベイパーと
ありったけの轟音を地面に叩きつけて
青空の彼方に小さくなっていった。

F-2のハイレートクライム

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20年前、
私は初めてこの小松基地で戦闘機を見た。

あの時と同じ
彼らに対する、武者震いするような憧憬を
今もまた感じている。


~ 小松基地航空祭2014 完 ~


撮影後記

 航空自衛隊パイロットの発するオーラというものが確かにあるように思う。
 パイロットと実際に話したことはないけれど、どのパイロットからも、ラインのパイロットとは違う「凄み」というべきものが伝わってくる。
 あれは一体何なのか。

 以前、とある番組で自衛隊パイロットの養成の様子を見た。
 浜松基地でのT-4を用いた中等訓練過程。
 それは、パイロットという、ぱっと見クールでスマートなイメージとは真逆の、怒号と罵声が飛び交う世界だった。

 訓練中、2度の失敗は許されない。
 失敗を繰り返す者はたやすく「適正なし」の烙印を押され、「エリミネート」、つまりパイロットの道から強制退場を命ぜられる。

 極度の緊張とプレッシャーの中、それこそ「飛びたい」という強い意志の下支えがなければあっという間に心が折れてしまいそうな修羅場のなかを耐え抜いてきたのが彼らだ。

 パイロットの証、ウィングマーク。
 その翼は、決して生まれ持っていたものでも、天から偶然に与えられたものでもない。
 それは、パイロット自身が血の滲むような努力の先にようやく掴み取った翼なのである。

 航空自衛隊のパイロット誰もが辿る、厳しく険しい道。
 彼らの凄みは、その過程で身体に刻みつけられるものなのかもしれない。

 どの飛行機にもそういう者達が乗り、操縦桿を操っている。
 彼らの手の動き、足の動きは、そのまま機体の挙動となって現れる。
 空の上で、彼らと機体は一つになる。

 飛行機を撮ることはパイロットを撮ることだ。

 航空祭に足を運ぶたび、そういう思いは強くなっている。

 

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