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上野恩賜公園 第48回 全国氷彫刻展夏季大会(7月7日)
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『全国氷彫刻展夏季大会』
NPO日本氷彫刻会が主催する
氷彫刻の全国競技会。
5月に全国各地で開催される予選を勝ち抜いた
100名の精鋭が一同に会し
氷彫刻の腕を競う。
2019年7月7日
上野恩賜公園、さくら通り。
『全国氷彫刻展夏季大会』会場。
天候は雨。
気温約20度。
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午前10時10分。
会場内にはすでに作品の台座となる氷が配布され
選手番号が貼り付けられている。
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氷柱が雨よけの厚ベニヤを被せられて出番を待つ。
氷1本あたりのサイズは105×56×26センチ。
重量135キログラム。
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開会式。
NPO日本氷彫刻会会長
高橋徹氏。
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居並ぶ選手たちの中に見つけた。
背番号28番。
平田浩一さんだ。
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優勝杯返還。
昨年の優勝者、近藤卓さんが登壇。
ちなみに近藤さんは今年1月、
松本の大会で平田さんと組んで優勝している。
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競技に先立って、今回の大会のルールについて説明がある。
主だったものは、次のとおりだ。
★ 選手1人につき氷(135kg)1本。これを競技時間内に彫刻すること。 ★ 競技時間は50分。但し、新人枠の選手は60分。 競技終了の時点で、作品が台座に載っていないものは失格とする。 ★ 電動工具及びドライアイス、コールドスプレー、アルミ板の使用、氷への下絵貼り、マーカーペンでの下絵描き、氷の分割・再接着は全て禁止。 ★ 完成後、30分以上造形を保てなかった作品は失格とする。(完成後30分以内に壊れれば失格) ★ 刃物による怪我で出血があった場合は主催者側で止血の措置を講ずるが、止血に要した時間も競技時間として算入する。
見てお分かりのとおり、
氷彫刻の定番テクニックが、今回は全て使えない。
一つの大きな氷を「人力のみで」彫り上げるという、
まさに氷彫刻の原点たるルールなのだ。
出血云々のくだりは少々大げさだなと思ったが、
この後の競技を目した瞬間、
それが決してオーバーな表現ではなかったことを思い知る。
選手宣誓。
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10時40分。
競技開始に向け、準備に入る。
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135キロの氷柱が
1人1本ずつ配布される。
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平田さんが彫刻道具を展開。
今回、おなじみの電動工具は使えない。
基本的なノミ、ノコギリ、小刀等だけを使った勝負だ。
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ノミの刃は鏡のように研ぎ上げられている。
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日常の業務の中で必要に応じて研ぐのとは別に、
大会直前は必ず、さらに念入りに研ぐようにしているのだという。
氷の切削面はノミの刃先の写し絵になる。
鈍った刃先では表面が荒れるし、作業効率も悪い。
一方、切れる刃先で削られた氷は、
それだけで断面は鏡のような光沢を宿す。
すばやく正確で、美しい彫刻をするためには、
鋭利かつ狂いのない刃先が不可欠なのだ。
ちなみに、平田さんの使っているノミは50本を超えるそうだ。
今回のような競技彫刻の場合、
その50本の中から勝負道具たりうる
いわば「一軍」のノミを厳選して、
平田さんは大会に臨んでいる。
「大会には一軍以外持ってこない」
という。
やはり道具なので、使ううちに手に馴染んで
「一軍」に育ったノミなのかと思ったらそうではなく、
「良いノミは最初から良い」のだそうだ。
刃先の角度とか、握りやすさとか、
そういう素質が「一軍」は最初から良い。
だから、一軍のラインナップは常に固定なのだという。
毎日毎日膨大な氷を彫り続ける平田さんだからこそ、
そういう手先から伝わる微妙な感覚までもが
道具としての重要な要素になり得るのだろう。
これは、ゴルフバックではなくて「ノミ入れ」。
いわゆる氷彫刻師の可搬式武器庫である。
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白刃きらめくノミを背負って
身一つでやって来て、
氷の塊から見たこともない造形を彫り上げて
颯爽と帰っていく。
さながらその姿は
さすらいの氷彫刻侍なのである。
10時50分。
雨模様にも関わらず、
競技開始に向け
客足が増してくる。
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競技開始まで6分。
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設計図の確認。
今回の大会で平田さんが設計図を見たのは
これが最初で最後。
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この大会は、
事前にデザイン画の提出が求められている。
選手から提出されたデザイン画は
一覧となってパンフレットに印刷され
来場者に配布される。
今回、平田さんが制作するのはこれ。
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タイトル『ボールと追いかけっこ』。
斜めに立った背もたれ付き椅子の上で犬が逆立ちして
椅子の脚の上を転がっていくボールを追っている。
ただこれは、あくまでも二次元の正面図。
実際にはこの図に描かれていない部分も含め、
立体として彫刻される。
こうしてデザイン画が公開されたとはいえ、
今のところ真の完成形は、平田さんの頭の中にのみ存在している。
競技開始3分前。
いつになく厳しい表情。
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今年で氷彫刻歴31年の平田さん。
この大会に出場するのは31回目。
つまり、この業界に足を踏み入れて以来、
毎年欠かさず出場しているのだ。
その平田さんが、
競技開始の前はいつも、
「緊張で足が震える」
という。
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松本の大会とは全く違う、
張り詰めた平田さんの表情にまず驚かされる。
11時。競技スタート。
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選手たちが一斉に動きだす。
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今回は氷一本への彫刻なので、切り分けや組み上げ作業はない。
いきなり氷への筋彫りが始まる。
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1分経過。
猛速で氷に三角ノミを走らせていく。
デザイン画には目もくれない。
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競技開始からおよそ2分、筋彫りが完了。
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すぐさま彫刻作業に突入する。
ここからが凄まじい。
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電動工具を使えないので、作業は全て人力。
ただでさえ時間に余裕がないので、
いきなりトップギアでの全力疾走を余儀なくされる。
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全身の筋肉を総動員して氷を削っていく。
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4分経過。
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離れた場所から撮っていても、
平田さんの荒々しい息遣いが聞こえてくる。
そこに時折、氷彫刻にはおよそ似つかわしくない
腹から絞り出すような呻き声が混じる。
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5分経過。
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足元には、みるみるうちに砕氷の小山が築かれていく。
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選手全員が一心不乱に氷を彫る。
平田さんのみならず、
会場のあちこちからも苦しそうな呻き声が聞こえてくる。
皆肩で息をしながら氷に刃物を突き立てている。
事情を知らぬ人が見れば、かなり異様な光景に映るだろう。
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そうこうするうちに、全体の形が見え始めた。
ちなみに、まだ開始8分である。
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氷をくり抜く場所もかなりある。
表面を削るよりも作業により手間がかかる。
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平田さんが後に最も辛いと語った
「地獄の10分間」をなんとか切り抜ける。
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残り40分。
これをまだ40分あると見るのか、
もう40分しかないと見るのか。
いずれにしても、
まだ完成までにやるべきことは山ほどあるのだ。
【2】に続く
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