平田浩一 氷彫刻 『ボールと追いかけっこ』【2】

【1】【2】【3】

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競技開始から12分。

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全体的な削り出しから
より部分的な彫刻作業に移行。

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14分経過。

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砕氷も作業の支障になる量になってきた。
平田さんが咄嗟に足払いして、作業エリアを確保する。

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16分。

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20分。

平田さんの手は一瞬たりとも止まらない。
スタートから変わらぬ勢いで動き続ける。

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犬の形が見えてきた。

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冬の氷彫刻と違って周りは常温、
それもかなり高い温度だ。

冷凍庫から出した時は固く締まっていた氷も、
常温にかなりの時間晒されて緩み
柔らかい氷に変化している。

急いで彫らなければならないが、
力加減を誤ると割れてしまう恐れもある。
そのさじ加減が難しい。





24分経過。

椅子の背もたれをくり抜く。
背もたれは一枚板ではなかった。
デザイン画では分からなかった部分だ。

薄々予想はしていたものの、
やはり恐ろしく手数が多いことが判明する。

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25分経過。

競技時間は50分間なので、
ここが折り返し地点となる。

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26分。

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27分。

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29分経過。

立ててあった氷を横に寝かせる。

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31分経過。

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とめどなく吹き出る汗がと雨が混じり合い
頬を伝って滴り落ちる。

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34分経過。

今回、運営スタッフとして参加している加瀬秀雄さんが登場。

運営スタッフは会場を巡回しながら、
砕氷の片付けや作品の移動など、
必要に応じて選手をサポートする。

加瀬さんは松本や旭川の大会で
平田さんと何度もタッグを組んできた。
平田さんの氷彫刻における諸事を
阿吽の呼吸として理解している人だ。

登場のタイミングもやはり絶妙なのだ。

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「加瀬さん、今何分!?」
平田さんから質問が飛ぶ。

「もうちょっとで40分!」

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36分経過。

平田さんの作業のタイミングを見計らって
加瀬さんが素早く砕氷を除去する。

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37分。

寝かせてあった氷を移動。
すかさず加瀬さんがサポートに入る。

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いくら削り込んであるとはいえ、
もともとは135キロあった氷だ。
少なく見積もっても
50キロを下回ることは考えられない。

重さ的にも一人で持ち上げることは不可能だし、
複数の力点を使って持ち上げなければ
せっかくの彫刻が壊れてしまう恐れがある。

さらに、ただ闇雲に持ち上げるのではなく
どこをどう持ってどう持ち上げるか、が重要だ。

そこで活きてくるのが
加瀬さんの氷彫刻のセンスなのである。




37分経過。

無事に彫刻が台座の上に載る。

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すぐに作業を再開。

38分が経過。

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39分。

雨が強くなってくる。

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ノコギリで横方向の力を加えると
台座の上で彫刻がわずかに回転する。

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冬の氷彫刻と違って気温が高いので、
氷同士は簡単に接着されない。

彫刻は台座の上にあることはあるが、
ただ載っているだけという状態だ。
力加減を誤れば、落下、破損となる。

ここでさらに懸案事項があった。
彫刻の土台部分を御覧いただきたい。

デザイン画では、
椅子の脚の下に四角い土台が備わっているが、
現物にはその土台がほとんどない。

後から平田さんに聞いた話だが、
競技開始数分の時点で、
この土台部分を削りすぎてしまったという。

斜めになったバランス的にも難しい彫刻の荷重を、
予定よりも小さくなった土台で受け止めることになった。

各部の重量バランスが少しでも狂えば
崩壊してしまう危険が出てきた。




41分経過。

競技時間残り10分を切る。

選手たちのテンションも最高潮に達する。

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43分。

平田さんがひざまずいて作業している。

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なんと、あれほど小さくなってしまった土台部分を
さらに削っている。

この面積でも全重量を支えきれるとの判断か。

長年の経験に裏付けられたテクニックだと思うのだが、
見ている側としては
とにかく恐ろしいの一言に尽きる。

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ラストスパートに入る。

だが、最初からずっとラストスパートだったと言えなくもない。

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46分経過。

残り4分。

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ここで平田さんが初めて手を止めて彫刻から一歩離れ、
全体のバランスを確認する。

長丁場の大会であれば頻繁に行われる動作だが、
今回はこれが最初で最後だった。

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残り3分。
細かい場所に手を入れていく。

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残り1分。
運営スタッフから「間もなく終了」のコール。

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残り1分を切った。

平田さんの右手にはノコギリ、
左手にはノミが握られている。

作業が終わる気配はない。

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残り数秒。

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ここで「競技終了」のコール。

その声と同時に、
傍らに置いてあったペットボトル入りの水を
彫刻の上から盛大に振りまく。

競技中ずっと、作業場の片隅に
ミネラルウォーターのペットボトルが2本、
手付かずで置いてあった。
それがなぜ、「蓋が開いた状態」だったのかを理解する。

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氷彫刻制作の最終工程「表面処理」。
氷の表面についた細かいキズや、
氷屑を解かして透明感を増すための作業だ。

冬の大会だとバーナーで炙ったり、ぬるま湯をかけたりするが、
常温下の本大会では「水」だ。

ペットボトルの水は
そのためのものだった。
それもおそらく、
競技終了と同時に作品へ「ぶっかける」ことは
当初から計画に織り込み済みだったのだ。

凄まじいな、と思う。





11時50分、
氷彫刻『ボールと追いかけっこ』
完成。

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競技を終えた平田さん。
なかば放心状態で立ち尽くす。

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これがどれほど過酷な全力疾走だったのか、
その表情が物語っている。



【3】に続く

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