平田浩一 中寺吉宣 氷彫刻 ”ファミリー”【2】

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17時30分。
夕闇迫る中、氷の組み上げ作業が続く。






純氷1本の重さは135キロ。
半分に切り分けたとしてもなお、成人男性1人分くらいの重さがある。
透明で軽やかな見た目とは裏腹の、相当な重量物だ。

加瀬さんによれば、
12時間の序盤に最大級の肉体作業が来るので、
いかに速く、無駄な動きをせず体力を温存するかが、
この後の作業に大きく影響するという。
「見た目以上に、本当に辛い作業ですよ」

 

組み上げの際は、ただ純氷を重ねていけばいい、というわけではない。
組み上げる前に、さまざまな氷の下処理が必要だ。

平田さんはまず、純氷の表面を平ノミで薄く削っていく。
氷の表面は運搬などの際に傷ついたり汚れていることがある。
そのまま氷を組み上げてしまうと、氷の内部に汚れが閉じ込められてしまい、
最終的に美しい氷像にすることができない。
ゆえに、組み上げる前の段階で接合面を徹底的にクリーニングする。

「もう一つ、重要な理由があるんです」と加瀬さん。

純氷は工場で金属のアイス缶を使って製氷される。
このアイス缶から純氷を取り出す際、
氷を缶から外れやすくするため、
アイス缶の寸法は底部より上部が若干広めに作られている。

つまり実際の純氷は製造上の都合で
厳密な直方体ではないのである。

だから純氷をそのまま積み上げてしまうと、
いくら水平にしたつもりでも、
氷は少しずつ傾いて組み上がってしまう。

この平ノミによる表面切削は
氷をクリーニングするのと同時に、
氷のわずかな歪みを補正して、
水平に組み上げるための秘訣でもある。

「でも、注意しなければいけないのは・・・」と加瀬さん。
松本の大会のように、会場が未舗装の地面だと
配布された純氷の表面に、稀に小石などが付着していることがある。
この小石に気づかずにノミを当ててしまうと、
硬く脆い鋼の刃が、一瞬のうちに欠けてしまうという。
そうすればもう、ノミは期待どおりの働きをしてくれない。
良い鋼材を使って、しっかり研ぎこんだノミほど、そういうリスクは高い。

後々の工程を考えると、手早くこなさねばならない作業だが、
だからといって勢いだけでやってしまうと、
そういう思わぬハプニングに見舞われることがある、という。





大きな氷同士を接着する場合は、
ノコギリを使って氷の表面をわざと荒らす。

荒れた面同士を重ね合わせ、
その隙間に水を流し込むことで
水は細かい傷を埋めるようにして氷結し、
氷同士を繋ぐ強固なクサビとなることを狙っている。




接合面を整えた氷同士を重ね合わせるとすぐ、
そこにノコギリの刃を入れて何度も押し引きを繰り返す。

繋がっていない氷同士をさらに切り分けようとするかの如き奇異な動作で、
初めて目にすると首を傾げたくなる。

実は、表面処理した氷を重ね合わせても、
未だ表面に微小な凹凸があったり
氷屑が挟まっていたりして、
氷同士は密着していない。

そこで、氷の隙間にノコギリを入れることで、
接合面同士の密着と異物の除去を
同時に行うのである。

加瀬さんによると、
この作業も見た目以上に大変なのだそうだ。

ノコギリの刃を通した直後はまだ容易に押し引きできるのだが、
氷同士が密着するにつれて、
ノコギリがとてつもなく重くなってくるのだという。
つまり、逆の見方をすれば、
「ノコギリが重くならない限り終われない」作業なのだ。





次に平田さんは、
純氷を半分の厚さに切り分けたものを削り始めた。



薄く、まんべんなく削っていく。



切削完了した表面。



さらに表面をアルミ板で鏡面にする。



2枚を張り合わせて、
接合面に水を流し込み接着する。

これは、いわゆる氷の「芯抜き」作業。

純氷の中央部分には、
製氷する際にできる白く不透明な「芯」が残っている。
通常、芯はごく薄いのでそれほど問題にはならないが、
氷像の完成後も白い筋として僅かに残ってしまう。

それゆえ、完全に透明な氷像を目指す場合には、
この芯を除去する作業が必要となってくる。

芯抜きの作業は、純氷を半分の厚さに切り分け、
芯の部分を削り取って再び氷を張り合わせる。

非常に手間のかかる作業であり、
当然、全ての氷に対して行える処理ではない。

最高の透明度が求められる箇所を
ピンポイントで芯抜きしておくのである。




芯抜きした氷はさらに切り分けて
ハーフサイズの純氷2段重ねの上へ。




ここで、平田さんの彫刻道具一式が運ばれてくる。
数種類のノミと電動工具である。





18時37分、
氷への筋彫りが始まる。




デザイン画を片手に、
氷の上に三角ノミを走らせていく。




またたく間に氷の上へ
曲線が刻まれていく。



筋彫りの線を
ドリルでなぞって深くする。




ドリルで深くした先に沿って
チェーンソーを入れ、
荒削りしていく。





18時44分。
途中経過。





筋彫りの線に沿って「型抜き」していく。





型抜きが終わると、
いよいよ立体的な彫刻に入る。



事前に用意しているデザイン画は完全な正面図で、
氷像の奥行きに関する情報は皆無だ。

よって型抜き以降の完成予想図は
平田さんの頭の中にしか存在していない。






平田さんはその頭の中の立体図を
目前の氷の上に
次々と展開していく。





18時55分。

制作開始から2時間が経過した。





【3】に続く

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