平田浩一 中寺吉宣 氷彫刻 ”ファミリー”【3】

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平田さんにとってチェーンソーは
切断のためだけの道具ではない。

例えば、氷に深い穴を穿っていく時。



グラインダーのように、
氷の表面を削っていく時。





通常、ノミやグラインダーに持ち替えながら
氷の上をを何往復もさせるところを、
チェーンソーのひと撫でで決着をつける。

制作時間短縮のための必殺技。

但し、ハイパワーのチェーンソーは僅かでも扱いを誤れば
回復不能なミスを招くリスクもある。

チェーンソーを手先のように扱う熟練者にこそ許される技なのだ。





チェーンソーによる切削に続いて、
平ノミによる荒削りが始まる。





ノミが氷を削っていくシュッシュッという音が小気味よい。





ノミを走らせた氷の表面は、
油を引いたかのような光沢を一瞬で宿す。
ノミの刃が鋭い証拠だ。




途中経過。

生物的な形が見えてきた。






彫刻中、氷の一部が欠けてしまうというハプニングがあった。

もともと別の氷塊を接着してあるものなので、
場所によっては着きが甘い箇所もある。
たまたまそういう箇所に力が加わると、
接着面を境にして氷が欠けてしまうことがあるのだ。

氷彫刻はそういうデリケートな性格がある反面、
「剥がれたら再接着可能」という強みもある。

削りすぎて氷屑にしてしまったり、
地面に落として粉々にしない限りは
再接着によって壊れを復元できるのだ。

もちろんこのパーツは、
後に再接着されて事なきを得た。





彫刻作業を続ける平田さんの後ろで
中寺さんも黙々と氷に向かい合っている。




半分の厚さにした純氷を
チェーンソーで切削している。




中寺さんが削っている氷には平田さんがあらかじめ作ってきた
「型紙」が貼り付けられている。

型紙は原寸大で作られており、
氷の表面に貼り付けて型紙に合わせて切削していくだけで
寸法通りのパーツを作成することができるメリットがある。





特に、中寺さんのようなベテランであれば、
型紙どおり正確に切削していくことが可能なので
作業効率化の有効な手段となり得るのだ。




中寺さんが切り抜いた氷。
まさにあの海洋生物の形だ。





ということは、平田さんの彫っているこれも、
おそらく海洋生物のあれであろう、
と想像がつく。













ノミによる荒削りが完了。





次に、ノミで削った箇所の
角張った部分を
棒グラインダーで削っていく。












目を入れる。




紛れもなく、
タツノオトシゴである。






19時過ぎ、
機材トラブルが発生。

平田さんが使用中の
自前の作業用ライトの球が切れてしまった。



松本の大会は全体的な照明が当てられているが
場所によっては照度にムラがあったり、
細かい作業には明るさが足りなかったりすることがある。
そこで、手持ちのハロゲンライトを使って
手元の明るさを確保しているのだ。
そのライトが突然切れてしまった。

ちなみに加瀬さんによれば、
大会によっては、自前の照明がなければ作業するのも難しいほど
暗い現場もあるのだという。

氷彫刻は彫刻用の道具だけあればできると思いがちだが、
こういう環境に適応するためのツールもまた必要なのである。

「加瀬さん、ライト貸してー!」
観客席の加瀬さんへ平田さんからリクエストが入る。

この大会の前日まで、
奥日光でそれぞれのライトを使って氷を彫り、
そのまま松本入りしたので、
出場していない加瀬さんもフル装備を持っている。

加瀬さんは二つ返事で了解して、
自分のライトを平田ブースにセットする。

一件落着と思いきや、
加瀬さんの作業はこれで終わらなかった。



加瀬さんは回収してきた平田さんのライトを
その場で修理するという。

氷彫刻道具でもなければ、
環境適応ツールでもないドライバー一式を片手に、
加瀬さんはテキパキとライトを分解して
電球を交換。

「電球型のライトなんでね、たまに切れることがあるんですよ。
だからいつでも交換できるようにしてあるんです」

あまりの用意の良さに驚かされる。





そして、修理したライトを作業場へと戻す。




さらに、
「作業が進んでくると電源のコンセントが足りなくなるからね」
と、延長コードの末端に
これまた携帯していた分配タップを接続。

「平田さんの仕事をゆっくり見に来た」
と言っていた加瀬さんだったが、
やはり加瀬さんはただ観客席に収まってはいなかった。

チーム平田の、専属後方支援ピットクルーなのである。




制作開始から3時間が経過。

会場は観客でごった返している。




【4】に続く

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