平田浩一 加瀬秀雄 氷彫刻 『Crystal Fairy』【1】

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第31回 国宝松本城氷彫フェスティバル 全国氷彫コンクール (2017・1/21~22)

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正月の朝の団欒。

テレビ局は軒並み特番で
どこのチャンネルも
賑やかさには事欠かない。

何の気なしに、NHKにチャンネルを変える。

すると、画面に見覚えのある光景が映し出されている。

高々と積み上げられた氷柱。

女性ものまねタレントの「氷彫刻家の平田浩一さんでーす」という声とともに
白いコックコートに身を包んだ平田さんが登場したので
年明け早々、のけぞって驚いた。

平田さんは正月の縁起物として
番組内で「タンチョウヅル」を
リアルタイムで完成させるのだという。

平田さんはチェーンソーを振りかざし、
早速、氷の切削に取り掛かる。

番組出演者の面々が驚きの声を上げるなか、
画面の横から
和食調理服と白和帽のアシスタントがさっと登場して、
平田さんに手を差し伸べる。
見ればなんと、それは昨年平田さんとタッグを組んだ
加瀬秀雄さんであった。

平田さんと加瀬さんは
昨年の松本城氷彫フェスティバルで金賞受賞。
その後、旭川で開催された
氷彫刻世界大会にも出場、
見事、総理大臣杯を手にしている。

その強力氷彫デュオが
元日の朝から画面の向こうで氷を彫っている。

正月早々良いものを見たと喜んだのもつかの間、
制作の様子を見るうちに
笑ってばかりはいられなくなった。

積み上げられた氷のいたるところから
水がとめどなく滴る。

常温であることに加えて
煌々と灯るスタジオ照明が
氷を炙り続けている。

氷彫制作には高温を通り越して
「灼熱」ともいうべきこの環境。
これまで見てきた氷彫フェスの
厳しかったどの局面よりも
さらに厳しい。

番組の後半、作業はなんとか
ツルの翼を接合する段階まで来ていた。
「この温度じゃ普通はくっつかないんですけどね」
平田さんはそう前置きしつつも
ドライアイスとコールドスプレーを使い、
追加できうる全ての冷気を総動員して
氷の翼を接合にかかる。

氷の翼を両手で支えている最中も
これは何なのか、
これからどうするのか、
と絶え間なくインタビューを受けるのだが、
「ちょっといま喋るのがきついんで・・・」
と余裕がなさそうに呟く平田さん。

状況が状況なだけに
ハラハラして見ていられない。
もしもその翼が落ちてしまえば
瞬時に完成は絶望的となる。

しかし、そんな心配をよそに
平田さんと加瀬さんは
翼の接合に成功。

最後には見事、
巨翼を展開して羽ばたくタンチョウヅルを
完成させたのだった。

それが、2017年元日の出来事である。



それからちょうど20日後の
1月21日。

長野県松本市
松本城。

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公園入口に掲げられた氷彫フェスの看板。

「 最後の氷彫コンクール The Final 」

長年この場所で
氷彫刻師たちが技を競ってきたこの大会も
今回が最後となる。

笑っても泣いても
これが最後なのだ。
この場所で
夜通し撮影することも
おそらく、もうないのだろう。

今までとは違う
複雑な気持ちを抱えながら
会場内に歩を進める。

時計はもうすぐ
16時を回ろうとしている。

夕暮れ前の黄ばんだ光のなか
競技開始に向け
氷の配分作業が進められている。

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西陽に照らされる松本城を背に
平田さんと加瀬さんはいた。

平田さんはホテルニューオータニの氷彫刻室長。
生粋の氷彫刻師。

加瀬さんはアルカディア市ヶ谷の和食料理長を務める傍ら
氷彫刻の技術を習得。
平田さんとは昨シーズンからタッグを組んでいる。

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氷柱15本が順に配分される。
1本の重さは約135キロ。
見た目よりも、はるかに重い。

この氷柱15本をいかに有効に使って
12時間以内に作品を完成させるかを競うのが
この大会だ。

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16時40分。
日没間近。

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照明が点灯する。
場内も賑わいを増してくる。

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16時55分。
作業の準備が完了。
氷彫刻のための道具が
所狭しと並ぶ。

プロの氷彫刻師だけあって
道具の種類と数が多い。
制作の場面に応じて
これらを巧みに使い分ける。

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夕暮れ。

氷のオブジェにも
明かりが灯る。

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場内の特設ステージで
氷彫コンクールの
開会式が始まる。

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今回の出場者は過去最多の
国内外合わせて計18チーム。
いつにない熱気だ。

松本市の坪田副市長の式辞。

大会関係者の高齢化や、
温暖化による氷彫の展示環境悪化などを挙げ
氷彫コンクールの終了について説明する。

事情は色々あると思う。

ただ、この大会の終了は
本当に残念でならない。

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昨年の金賞受賞者、平田さんが
出場者を代表して挨拶。

「いつか、この大会が復活することを信じています」
という言葉が
強く印象に残った。

これで一旦は終わりにはなるけれど
いつか、そういう未来が来て欲しい。

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全員で記念撮影。
これも最初で最後の光景だ。

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しかし、感傷に浸っている暇はない。
これからが本番なのだ。

制作開始に向け
出場者は足早に持ち場へと急ぐ。

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氷彫コンクールはこれで見納めだということを
知ってか知らずか
いつになく
多くの観客で賑わう会場。

人々の口から
「これで最後なんだって」
という言葉を幾度となく耳にする。

やはり皆それぞれに
この大会を名残惜しんでいるのだろう。

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17:40
制作開始。

12時間にわたる
格闘が始まる。

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氷彫制作の序盤は
ほぼ、
「採寸」「切断」「組み上げ」
という作業に終始すると言っていい。

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氷を切り分けると言っても
その場の思いつきで適当に切るという訳にはいかない。

使える氷は15本。
途中で足りなくなったからと言って
おかわりはできない。

適当に彫ってしまえば
作品はどんどん小さくなり
氷の屑の山ばかりが大きくなる。

限られた量の氷で
大きく迫力ある氷彫を作るために
制作者はみな細心の注意を払う。

その為、図面通りに採寸し、
正確なブロックに
氷を切断するのだ。

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氷の組み上げ。

氷彫刻に使われるのは
製氷工場で作られた「純氷」。
いわゆる、かき氷や飲料に使われる
硬く、透明度の高い氷だ。

切断前のフルサイズの純氷は「原氷」とも呼ばれ、
サイズは約約105×56×26cm。
重量は135kgだ。

ちなみにこれはJIS規格で定められている。


氷自体が透明で
見た目には重量感に乏しいが
実際には標準的な成人男性2人分ほどの重さがある。

この氷を氷ばさみを使って
人の背丈まで積み上げていく。

手慣れた大人が
二人がかりでやっと行えるほどの
重労働なのだ。

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原氷を半分に切断したもの。
これだけで約70kgだ。

これをさらに積み上げる。

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積み上げた氷の隙間に
ノコギリの歯を通して押し引きする。

規格どおりの氷ではあるが
輸送中に傷がついて表面が荒れていたり
汚れがついていたりすることがある。

そのまま放置すれば氷がぐらついたり
汚れが内部に閉じ込められてしまうおそれがある。

重なった氷塊の間にノコギリを通すことで、
互いに接する面をクリーニングしながら平らに整え
氷同士が強固に接着するようにする作業だ。

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さらに透明度を要する部位に関しては
組み上げの前に、
ノミを使って表面処理を行う。

ノコギリよりもはるかに鋭利な
ノミで氷を削ることで
鏡のように平滑で透明な面を得ることができる。

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そして組み上げ。

最初に作った大きな氷塊とは別に
小さな別の氷塊として組み上げる。

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氷彫刻の作り方は人それぞれで
最初に最大限の高さまで氷を積み上げ
一気に彫っていくやり方もあれば、
全体を幾つかのパーツに分けて制作し
後で接合するというやり方もある。

平田さんはほぼ、
後者のやり方をとっている。

この小ぶりな氷塊は、
後に接合されるパーツになるはずだ。

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18:24。
もう一つの氷塊が組み上がった。

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地元テレビ局の取材が入る。
一旦作業の手を止めて
インタビューに応じる平田さん。

去年の金賞受賞者ということで
平田さんの動向には
誰しも注目するところだ。

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原氷にチェーンソーで縦に切れ目を入れる。

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厚さ半分の氷板2枚にする。

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それを接合。

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1枚の大きな氷板ができあがった。

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18:40。
氷の組み上げ作業が終了。

作業開始から1時間が経過。

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この切り分けと組み上げは
完成後の華々しい作品のイメージと比べ
随分と地味で、淡々とした作業だ。

一見、何をやっているのかわからないこの作業に、
頭の上に大きな疑問符を浮かべたまま
唸っている観客も多い。

だが、この切り分けと組み上げの作業こそ、
氷彫制作における根幹とも言えるものなのだ。

もしも
土台がわずかでも傾いていれば、
組み上げた氷同士がズレていれば、
いずれ作品自体が大きく傾いてしまう。

そうなってから修正するのは不可能だ。

ゆえに制作者は
この作業に心血を注ぐ。

12時間の制作の序盤であるにも関わらず、
体力的にはいきなり全力疾走を要求される。

寒さの中、身体中の骨がきしむような大仕事だが
後々のことを考えると、
決しておろそかにできない。

そういう作業なのである。


― 【2】に続く ―

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