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-
20:00。
賑わう会場。
-
気温はすでに0度を下回っている。
このまま行けば、
さらに下がるのは間違いない。
ここ数年の大会では
暖かさに泣かされることが多かった。
雨の中、氷を彫ったこともある。
気温のことを心配しなくていいというのは
精神衛生上ありがたい。
-
時折手を止めて
図面を確認する平田さん。
-
そしてまた
彫り進める。
人物像背後の張り出した部分を
丹念に加工する。
-
加瀬さんも、
氷板の加工を着々と進めている。
-
複雑な曲線を一つ一つ切り抜いていく
地道な作業だ。
-
くり抜いた空間が
少しずつ拡大していく。
-
言葉もなく、
彫り続ける。
-
トラブル発生。
チェーンソーの刃が外れてしまった。
-
主要な工作器具であるチェーンソーが
使用不能になったらこの先どうするのか、と
こちらは内心焦ったが、
平田さんは慌てる様子もなく
早業でサッと直して
すぐに作業に戻る。
毎日自分の手足のように駆使する道具なので
やはり扱いも手慣れている。
当たり前といえば当たり前だが、
その当たり前さに感心する。
-
20:20。
加瀬さんが手がけていた
氷板の加工作業に一区切りがつく。
-
ここで、
苦心して彫った大きな氷板を、
分割してしまう。
-
平田彫刻の大きな特徴の一つは
この「分解」にある。
一般的に、
氷彫刻というのは「育って」いくものである。
時間の経過とともに
形なきところに形が現れ、
完成形に向かって、不可逆的に作業が進んでいく。
ところが、平田彫刻の場合、
一旦形を与えられた氷が
この「分解」という工程を経ることで
再び形を失うことがあるのだ。
ちょっと目を離した隙に
さっきまであったはずのパーツが見当たらない。
そういうことが、よくある。
-
チェーンソーを使って、
薄い氷板を、
さらにスライスしようとしている。
原氷を2分割したこの氷板は
厚さが約13センチほどだ。
それをさらに半分にすれば
片方の厚みは約6センチあまり。
チェーンソーの刃の進め方を
わずかでも誤れば、
今までの努力が一瞬のうちに氷屑に変わってしまう。
-
正確なチェーンソーさばきによって、
氷板は途中で割れることなく
無事、スライスに成功。
-
20:36。
平田さんが彫っていた
人型の氷塊にノコギリが入る。
-
胸から上が分割される。
-
さらに胸から下も分割。
-
次に
最初に積んだ大きな氷塊の上面を
平ノミで整える。
-
ぬるま湯で温めたアルミ板を
氷に押し付け解かし、
断面を平滑にする。
よく見ると、最上段の氷は
直方体ではなく
向かって右側へ
微妙な傾斜がつけてある。
-
その上に、先程分割した
人型の氷を積み上げる。
重さに歯を食いしばりながらの作業。
これほどの高さに人力で氷を持ち上げるには
一旦、氷塊を分割するほかはない。
分割せずに、そのまま組み上げるならば、
フォークリフトの支援を受ける必要がある。
だが、フォークリフトは諸刃の剣でもある。
利便性を得る代わりに、
相応のリスクも負わなければならない。
フォークリフトによって作業時間は確実に短縮できる。
しかし、短時間とはいえ、
作品の命運を、人の手に委ねることになる。
加えて、氷塊がより重くなることによって
位置合わせ等の微調整もより難しくなる。
平田さんがこの「分割」の手法を多用するのは
そういうリスクを可能な限り回避するためでもあるのだ。
氷彫制作の環境は、時と場所によって一変する。
現場によっては
フォークリフトの支援を受けられないこともある。
それどころか、終始一人きりの作業を
強いられることもある。
これまでそういう厳しい現場で
幾度となく氷を彫ってきた平田さんだからこそ、
スタンドアローンで完成形に持っていける
「分割」という手段を
重要視しているのかもしれない。
-
氷の隙間に
水を流し込んで接着。
-
続いて、胸から上のパーツを
組み上げる。
-
20:56。
人型氷塊の組み上げ完了。
-
作業の行方を
多くの観客が見守っている。
-
― 【4】に続く ―
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