長野県佐久市 JAXA(宇宙航空研究開発機構)臼田宇宙空間観測所 地図
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闇夜に浮かぶ、不思議な形の建造物。

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長野県佐久市、
蓼科山東方の山中。
午前3時。
静まり返っている。

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午前4時、
薄明。

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東の空に光が戻ってくる。

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明けゆく空に
大きなシルエットがそびえる。

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日の出。

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朝の光の中に現れたのは
巨大なパラボラアンテナ。
離れた場所から見ても
威圧的なほどの大きさ。

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傘の直径は64メートル。
もちろん、日本一。

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傘の裏側の
トラス構造が美しい。

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あまりの大きさに、
敷地の外から見ると
山から生えているように見える。

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夏の空に、
白いアンテナがよく映えている。

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日も高くなってきたので、
施設見学開始。

門には『臼田宇宙空間観測所』の標板。
「観測所」というからには、何かの研究施設かと思いきや、
実は、通信施設。
その通信の相手は誰か。
それは、地球から遠く遠く離れた宇宙空間を旅する、
惑星や小惑星の探査機。
「はやぶさ」「はやぶさ2」といえば
誰でもピンとくる。
そう、ここは
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の
対宇宙空間用通信施設なのだ。

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ではなぜ、こんな大きなアンテナが必要なのか。
探査機の目的地は地球からはるか彼方、
数億キロメートル離れた場所。
たとえば「はやぶさ2」は
目的地である小惑星リュウグウへの接近時、
地球からは3億4000万キロの距離にあった。
1秒間に地球を7.5周できる電波の速さ(光速)でも、
リュウグウにいる「はやぶさ2」に到達するまで約20分もかかる。
つまり、地球との会話が成立するには往復約40分を要することになるのだ。
当然、それだけ遠方にいる小さな探査機から届く電波はとても微弱になる。
いくら大声で叫んでも、遠く離れてしまえば
ほとんど聞こえなくなってしまうのと一緒だ。
その上、小さな探査機から出せる電波の強度には限界がある。
ではどうするか。
「耳」であるアンテナを大きく、高性能にするしかない。
64メートルというバカでかいサイズは
そういう「宇宙の深淵からのささやき声」に
耳をそばだてる目的でデザインされているのだ。
また、そういう度外れの聴力を持ったアンテナであるがゆえに、
聞きたくないものまで聞こえてきてしまう弱点がある。
人間の生活圏はあらゆる雑多な電波に溢れている。
このアンテナはその聴力ゆえ、ごく微弱な電波であっても雑音として拾ってしまう。
それどころか、雑音が探査機からのささやき声を上回ってしまうおそれさえある。
だから、雑音となる電波が極力少ない、人里離れた山中に建設されているのだ。

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アンテナ基部に取り付けられた標板。
完成は1984年10月。
三菱電機製。
完成後、初の通信は
ハレー彗星探査機「すいせい」と行われた。

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施設は通常無人で、相模原市にあるJAXA宇宙科学研究所にある運用センターから遠隔操作されている。
だが時折、設備のメンテナンスのため人が入ることがある。
この日は幸運にも、そのメンテナンスの実施日。
アンテナと作業員。

こうやって人間の姿と比較すると、
アンテナがいかに巨大かがよく分かる。
黒い帯は、仰角制御用の歯車。
銀色の部分は制御軸

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直径64メートルなので、
傘の投影面積は約3217平方メートル。
シングルスのテニスコートなら
約16面分の広さだ。

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アンテナの縁に張られたステーは
ツバメの群れの憩いの場所になっていた。
そうこうするうちに、
アンテナからいろいろな機械音が聞こえ始めた。
これはもしや・・・
(動画)
自重約1800トンの巨大な構造物が
目の前でゆっくりだが着実に動いていく。
ただただ、圧倒される。
真横を向いたアンテナ。

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傘が地上に近くなった分、
余計に大きく感じる。

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アンテナの傘部分は
プラスチックコートされたアルミ製のパネルで構成されている。

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パラボラアンテナの種別は「カセグレン式」。
主鏡(傘)で受けて中央に集めた電波を、
さらに凸面の副鏡で反射させ、
主鏡中央の受信素子に導く形式。
送信の場合は逆経路で、
中央の送信素子から出た電波を
副鏡で反射させ主鏡に導き、
直径64メートルのビームとして宇宙に打ち出す。
ちなみに、電波のパワーは
送信出力20キロワット(2万ワット)。
一般的な電子レンジが600ワットとかなので・・・
要するに、このくらいのパワーがないと、
はるか彼方の探査機と会話できないのだ。

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今、このアンテナは
どの探査機と通信しているのか。

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秋。
再びパラボラアンテナを訪ねた。

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秋の空にも
大きなアンテナはよく映えていた。

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この日もアンテナは運用中。

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臼田宇宙空間観測所
64メートルパラボラアンテナ。

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信州の人里離れた山奥で
今日も宇宙の深淵とつながっている。
2019年11月、
美ヶ原にある三峰山に登った。
三峰山山頂から辺りを見回すと、
東南東方の山の斜面に
何か白い構造物が見えた。
手持ちの望遠レンズで確認すると、
それはパラボラアンテナ。
一瞬、臼田の64メートルかと思ったが、
拡大すると、アンテナの形状がちょっと違う。
64メートルアンテナは、傘の裏側の骨組みがむき出しだが、
このアンテナは、裏側にカバーがついている。
そう、これは、
臼田宇宙空間観測所に新たに建設中の
新型のパラボラアンテナなのだ。

すでに建設から35年経ち、老朽化が進んだ64メートルアンテナに代わる設備として、今年(2019年)12月の運用開始を目指して建設中。
直径はやや小さい54メートルだが、64メートルアンテナと同等の性能を得るため、主鏡の裏にはカバーを取り付け、温度管理を行う。(主鏡は気温や太陽光によって温められると、膨張して歪む→アンテナ精度が下がるため)
そのため、総重量は64メートルアンテナを上回る2100トンとなる予定だ。

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本格的な運用は2021年4月の予定。
それに先立つ試験運用では、
現在地球を目指して帰還中の「はやぶさ2」と通信する予定となっている。
完成後は64メートルアンテナと並んで、
日本の惑星探査の急先鋒を担う通信施設となることは間違いないだろう。
補足
現在、地球に向けて帰還中の「はやぶさ2」のステータスを表示するサイト「Haya2NOW」が公開されています(超おもしろい)。
現在のはやぶさ2の位置や電力状況、通信状態等をリアルタイムで表示しています。
また、今回紹介した臼田64メートルアンテナをはじめとする、世界の巨大アンテナ群との通信状況が手にとるように分かります。
→ Haya2NOW
また、地球の自転のため、はやぶさ2などの探査機と通信することができるのは平均8時間が限度になっています。
探査機と絶え間なく通信するためには、地球上に120度の角度で最低でも3箇所のアンテナを配置する必要があります。
しかし、我が国は日本国内にしか通信用アンテナを保有していないので、日本から探査機と通信できない場合は、他国のアンテナを一時拝借して通信を行います。
アメリカは惑星探査の大先輩なので、DSN(ディープスペースネットワーク)という惑星探査専門の通信回線を持っています。
そのDSNの中核を担うのが、スペイン・マドリード局、アメリカ・ゴールドストーン局、オーストラリア・キャンベラ局です。
打ち上げ直後や、軌道制御、着陸、地球帰還など、探査機と絶え間なく通信しなければならない時(クリティカル運用時)には、このDSNをはじめとする海外のアンテナを使って通信を行っています。
このDSNの運用状況もWEBで公開されていますので紹介します。
→ DEEP SPACE NETWOEK NOW(NASAサイト内)
どのアンテナがどの探査機と通信しているのか一目瞭然で面白いです。
臼田宇宙空間観測所の見学について
臼田宇宙空間観測所は施設見学を行っています(無料)。
しかしながら、冬季閉鎖として、2019年11月18日(月)から2020年4月17日(金)まで見学はできなくなっています。
見学再開については、JAXAの当該サイトを参照してください。
※この記事は、過去に掲載した写真を再選定したうえで、新しい写真と文章を追加し、再構成しました。
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