石川県金沢市香林坊2丁目12-15『酒房 猩猩(しょうじょう)』 地図
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金沢市。
雨降る宵。

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長町武家屋敷跡にほど近い
香林坊、せせらぎ通り。
ここに今回目指す『酒房 猩猩』
があります。
昨年秋に来た時はお休みだったので、
なんとしてもリベンジを、
と鼻息荒く入店。

お通し。
石川の郷土料理「べろべろ」。
(または「えびす」とも)
玉子の寒天寄せ。

『猩猩』は
大の酒好きという
伝説上の生きもの。
店にその名を冠しているということは・・・
推して知るべし。
案の定、店主厳選の地酒が
あまた待ち構えております。
お好きなものでどうぞ、
ということで、
好みのお猪口をセレクト。

「手取川」の大吟醸生酒が
片口に入って登場。
メロン+柑橘系の華やかな吟醸香が
たまらない酒。
そしてお酒と一緒に、サッとお冷が出てくる。
これ、これが嬉しい。
美味しい日本酒を美味しく飲むためには
このチェイサー(和らぎ水)が絶対必要。

「朝とれ ちょい〆鯖」

我が山国では考えられない程の
ピッカピカの鯖を
超浅じめで。
〆鯖というよりは
ほぼ刺身。
鯖ってこんなに美しい色をしていたのか。

「天然ブリ刺」

冬の北陸の大スター
天然寒ブリ。
「大根おろしと一緒にどうぞ」
とのこと。

脂の乗ったブリと
大根おろしのサッパリ感が
見事に調和。

「加賀生麩の揚げだし」

「いしるきゅうり」

「いしる」は北陸の伝統調味料。
いわゆる魚醤。
アジやイワシなどの魚を使ったものと、
イカの内臓を使っているものがあり、
それぞれ味わいが違う。
この「いしるきゅうり」には
両方をブレンドして使っているそうだ。
実は、かねてから魚醤は苦手だった。
ニョクマムやナムプラーの、
「海が攻めてくる感じ」がダメで
これまで敬遠していた。
だからこの「いしる」にも内心ドキドキ。
だが、いざ食べてみると、
激しく旨い!

特に、イカの「いしる」の味わいは素晴らしく、
にわかに「いしるファン」になってしまった。
この旅の後、我が家にも「いしる(イカ)」が導入され、
この「いしるきゅうり」が定番メニュー入りを果たした。
もはや「いしる」なしの暮らしは考えられない。
とはいえ、
このメニューにしっかり寄り添えるのは
日本酒しかない。
日本酒エライ!
「合鴨のロース(ハーフサイズ)」

合鴨の脂の味は
「合鴨の脂の味」としか表現のしようがない。
代わるもののない旨さだなぁと思う。
ジューシー赤身と脂の甘味の共同戦線。
濃厚な味わいの肉料理であっても
日本酒はバッチリ合うのだ。
日本酒エライ!

「フグの卵巣の糠漬け」

金沢に来たからには
現地でどうしても食べてみたかった一品。
超猛毒であるところのフグの卵巣(そのまま食べれば普通に死ぬ)
を、塩糠漬けにすることによって無毒化したもの。
地球上に存在する毒素でも
常に5本の指に入るテトロドトキシンが
なぜ塩糠漬けにすると抜けていくのか、
現代科学でも完全には解明されていないとか。
ナマコを最初に食った人間の勇気には感服するが、
それ以上に、
このフグ卵巣の糠漬けを編み出した人間の
食への執念には驚嘆する。
この製法が完成するまで
一体何人が命を落としたのか。
先人達の尊い犠牲の上に
今夜の旨い酒があるのだ。

アルミホイルに包まれ、
蒸し焼きにされたフグ卵巣。
糠漬けされたものを店主がさらに酒粕に漬けて
味を整えたとのこと。
塩辛いが、いろいろな発酵味が絡み合った
厚みのある味がする。
レモン汁を垂らして
大根の薄切りに載せると
さらに味わいが増し
さらにさらに酒の消費が増す仕組みだ。

「じゃえびの天ぷら」

「じゃえび」は甘エビやガスエビに似ているが、
別種のエビだとのこと。
あまり獲れず、足も早いので
かなりのレアキャラだそうだ。
味には毛ガニのような濃厚さがある。
非常に美味しい。
「ぎばさの酢のもの」

「ぎばさ」は「アカモク」という海藻。
粘りがあるのに、
海藻自体にはサクサクとした
軽快な食感があって旨い。
「実家製かぶら寿司」

誤字じゃなくて、
実際にご主人の実家で作っているのだそうだ。
かぶら寿司は加賀の郷土料理。
カブの間にブリの身を挟んで
麹で漬け込む、
いわゆる「なれ寿司」。
タイミング的に
まだ仕込んで間もない頃だったので、
かなりフレッシュな味だった。
乳酸発酵が進んだ
濃厚熟成バージョンは
次回に期待したい。
(再訪する気満々)

酒も料理も美味しいですが、
ご主人の日本酒愛が素晴らしく、
日本酒のことについて色々と教えてもらいました。
以下、ご主人によるレクチャーの覚え書き。
○「海の酒、山の酒」
以前、とある海なし県の酒を仕入れて店に出したが、思いのほか売れなかった。
おかしいな、と思いご主人は自ら試してみたが、どうも魚介系の肴と相性が良くない気がする。
そこで今度は、その酒を山菜(コシアブラ)と合わせてみると、とても相性が良い。
地酒というものは、自ずからその土地の肴に合わせるようにできている。
だから、海の酒は海の肴、山の酒は山の肴と相性が良いことが多い
○「酒は開封後も育つ」
日本酒は開封したらすぐに飲んでしまわなくてはならない、ということはない。
以前、ご主人が仕入れた酒で、どうにも気に入らない味わいの酒があって、開封はしたものの店に出すことができずにいた。
かと言って料理酒にする事もできず、ずっと冷蔵庫の中に眠らせておいた。
さらに時間が経ち、その酒は冷蔵庫からも追いやられ、常温下にしばらく放置された。
ある日、ご主人が何気なくその酒を口にしてみると、別物ともいうべき旨い酒に変貌していた。
全てに当てはまるケースではないが、開封後も時間とともに「育つ」酒はある。
そういう、時間とともに変わっていく味を楽しむのも、日本酒の魅力である。
※この店では、常にご主人が酒のコンディションを見ながら、旨くなったタイミングで店に出しているとのこと。逆を言えば、この店で飲んで気に入って、自分で買って家で飲んでも、それが店と同じ味わいの酒であるとは限らないということ。
○「お燗の温度」
お燗をつける時は、目的の温度に達したらお燗完了、ではなく、目的の温度を少し上回ってから徐々に冷めて目的の温度になったお燗の方が、酒が落ち着くので美味しい。
お燗は「行き」よりも「帰り」で。
お燗の温度は、厳密に越したことはない。
慣れた酒かつ慣れた手順でお燗するとき以外は、温度計を使うのがいい。
※「能登誉」を燗でオーダーしたら、ご主人から店員さんに「38度で」という指示。店員さんはデジタル温度計を使ってお燗してくれるというこだわりぶり。人肌燗の美味しさを初めて知った。
○「料理との組み合わせ」
濃厚な味わいの肴に淡麗な酒を合わせると、ビールのように「流し込む」形になってしまって、日本酒を十分に味わえないことがある。
日本酒はごくごく飲むのではなく、料理とともにちびちび舐めるように味わうのが魅力。
ゆえに、繊細な味わいの肴には淡麗な酒、濃厚な味わいの肴には重厚な酒をというように、その都度組み合わせを変えてみると面白い。
他にもいろいろと、日本酒についての楽しい話を沢山聞かせて頂きました。
聞けば聞くほど、さらに日本酒の奥深き世界にハマってしまいそう。
「猩猩」。
酒も料理も、ご主人の人柄も素晴らしく、
日本酒好きな方に
是非オススメしたいお店です。
(余談)
次の日、金沢は雪。
少し白くなった兼六園で
雪中梅を楽しみました。

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回顧録
日本酒という一括りにはなっているものの、土地と蔵によってその味は千差万別だし、どういう味わいの日本酒が好きかどうかも十人十色である。
つまり、誰かが美味いと褒めた酒が、自分にとって必ずしも美味い酒だとは限らないということだ。
日本酒好きになるということは、まず、「自分に合った日本酒」を探す旅を始める、ということでもある。
初めて飲んだ日本酒が美味いと思えたら、それは奇跡的な幸運である。初恋の相手と添い遂げるようなものだ。
日本酒好きへの道は遠い。
それは恋愛と同じく、出会いと別れを繰り返し、「日本のどこかに私を待っている」であろう酒を求める道なのだ。
だから、眼の前の日本酒が、日本酒の全てだと思ってはいけない。
えげつないTVCMを繰り返す、大手酒蔵の大量生産酒をもって日本酒を語ってはいけない。
自分にとってかけがえのない日本酒というものが、必ずや日本のどこかに存在している。
その酒とめぐり逢うことができたら、それは人生の伴侶を手に入れるのと同様の幸福と安らぎを得ることになるだろう。
そして日本酒は「習い事」でもある。
押さえるべきポイントを押さえないと、美味しく飲めるはずの酒が美味しくなくなってしまうことが多々あるのだ。
日本酒の味は、飲み方によっても大いに変わる。
チューハイのようにゴクゴク飲んで美味しいというものではない。
美味しい料理をひと口、それを追いかけるように日本酒をちびり、という飲み方が必要だ。でもこの技は、自力で習得するのは難しい。
「お前そんなゴクゴク飲んでどうすんだ。ツマミちょっとかじって酒をペロって舐めるんだ!」
と熱い指導を繰り広げる、日本酒道の師範が必要だ。
飲むときの温度とか、酒にあった酒器の選択とか、どんな酒にどんな肴が合うのかとか、日本酒を美味しく飲むための要素は多岐にわたる。
そういうことを教えてくれる日本酒道の師範が必要だ。
この猩猩の店主はまさに、そういう師範に当たる人だと思う。
私自身も店主の熱い日本酒愛に薫陶を受け、その後の日本酒ライフが一変したと感じている。
「日本酒はすぐ酔いが回るから嫌だ」とか「すぐに体が受け付けなくなっちゃう」とか言っている人は、そもそも日本酒の飲み方が間違っている場合が多い。
良い日本酒にもめぐり逢えていないし、また酒の師範にもめぐり逢えていないのだ。
それはとても残念なことである。
この猩猩のような、日本酒道の真っ只中を行く店が日本各地に存在している。
「日本酒はなんだかちょっと」と思っている方は、ぜひそんな店に足を運んで、店主のレクチャーに身を任せてみることをおすすめしたい。
(2018年7月13日・記)
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