ニホンカモシカ ― 冬来たる

長野県大町市 平
2015年撮り納め

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また会えた。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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夏から秋にかけて、
彼の縄張りを何度も訪ねた。
しかし、どこを探しても会えなかった。

その角輪(かくりん)から
もう若くない個体だということは分かっている。
もしかすると
命を落としたのかもしれない。

そう思い始めていた。

だが、生きていた。

その端正な風貌も健在だ。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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ニホンカモシカの顔は
地域差や個体差が大きく、
顔のバリエーションは豊かだが、
一般的に言って、美しいと言えるような顔の個体は少ない。
だが、この個体は初めて会った時から
ハッとさせられるような姿をしていた。

いままで私が会ったニホンカモシカの中で
この個体は最も美しい。

それだけは自信を持って言える。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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ちょっとアホっぽいニホンジカとは違って、
人間を見ても、すぐに慌てて逃げ出したりはしない。

四本の脚で地面をしっかりと踏みしめて、
射抜くように、まっすぐこちらに視線を合わせてくる。

物怖じしない堂々たるその態度は、
深山の主であるかのようだ。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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毛並みも体格も
前に見た時と変わらない。
心なしか、少しばかり貫禄が増したような気もする。

本当に元気でよかった。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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人間とのにらめっこに飽きたのか、
やがてゆっくりと踵を返したかと思ったら、
林の奥に向かって
足早に歩を進め始める。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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探して探して、やっと会えたというのに
もう行ってしまうのか。

矢も盾もたまらず、
後を追う。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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薄く雪が積もった雑木林の中に
規則正しい足跡が点々と続く。

その足跡を目で追った先、
30メートルくらい向こうの木立の中に
カモシカの姿があった。

「ついてくるなよ」と迷惑がっているようにも見えたが、
かといってそのまま先に逃げていってしまうわけでもなく、
そこに立って私の進退を伺っている。

私はカモシカとの間合いを詰めるべく、
斜面をさらに登っていくことにした。
冬の雑木林は閑散としていて見通しが利く。
積雪深3センチほどの比較的ゆるやかな斜面は、
歩くのにも問題はなさそうだ。

遠くに見えるカモシカに向かって
一直線に距離を詰めていこうと歩き始める。
数歩歩かないうちに、雪に足を取られて転びそうになる。
そこで、ルートを変えようと横に踏み出す。
その途端に、宙を這う細い枝に顔を叩かれる。

姿はそこに見えているのに、
一向に前に進むことができない。
この斜面を登っていくのは、
意外にも難しそうだった。

私は一直線に登るのを諦めて、
彼の足跡を辿っていくことにした。
足跡はゆるやかな曲線を描いて
斜面の上へと続いている。
遠回りだが仕方がない。

カモシカの足跡をなぞり歩き始めてすぐ、
あることに気づいた。

何の苦もなく登っていける。

滑ったり枝に引っかかったりしていた先程とは打って変わって
実にスムーズに距離と高度を稼いでいけるのだ。

そうか、これが「獣道」なのだ。

これからもっと山は雪深くなる。
極寒と食糧が乏しい状況の中で、
無駄な動きをすれば、命を落としかねない。
獣道は、彼等が命を繋いでいくため必然的に身につけた知恵なのだろう。

冬の山の中で、
図らずもカモシカに山登りを教わったのだった。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM

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降りしきる雪の中を
黙々と進む。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM

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時折、目についた蔓草を口にする。
細い蔓でも、芯は硬くて食べられない。
時間をかけて表皮をこそげても、
胃袋に収まるのは僅かな量だ。

次の春まで、こういう過酷な毎日が続く。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM

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EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM

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彼らは孤独を愛する。

EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM + EXTENDER EF2×III

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数十ヘクタールという広大な縄張りの中で
ひとり暮らしていく。

EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM + EXTENDER EF2×III

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日に日に雪に覆われていく
この荒涼とした景色は
彼らの眼にはどう映るのだろうか。

EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM + EXTENDER EF2×III

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冬を生きていくことは
我々が思うよりもずっと
過酷であるにちがいない。

EOS5D Mark III + EF16-35mm F2.8L II USM

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生死の定めは
自然のみが知るとことなのかもしれないが、
それでも生き抜いて欲しい。

EOS5D Mark III + EF16-35mm F2.8L II USM

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そしてまた、その美しい姿を
見せて欲しい。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM

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また会えることを
楽しみにしている。



撮影後記

 おそらくこれが今年の撮り納めです。
 どうやって一年の撮影を締めくくろうかと悩んでいたところ、それを見かねた写真の神様が降りてきてくれました。

 誰もいない山中でカモシカと無言で向き合うのはいつでも感動的です。
 言葉ではない何かを感じます。

 

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