平田浩一 近藤卓 氷彫刻 『ペガサスの親子』【1】

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長野県松本市 国宝松本城氷彫フェスティバル2019
全国氷彫コンクール チャンピオンシップ(2019年1月26~27日)


 

― 序 ―

 氷彫フェスティバルに天気の神様がいるとしたら、 それはとても気まぐれな神様かもしれない。
 過去の気温観測値を振り返ってみると 大会当日の最低気温が いかに安定していないかが分かる。

2010年:-5.1℃
2011年:-7℃
2012年:+0.1℃(前半に湿った雪)
2013年:-7℃
2014年:+5.2℃。(夜半から明け方に雨)
2015年:-5.8℃
2016年:-3.6℃
2017年:-4.8℃(明け方+1.3℃へと急上昇)
2018年:-4.1℃

 この大会は、毎年最も気温が低くなる時期を選んで開催されているとはいえ、どのようなコンディションで氷彫制作が行われるかは結局のところ、天気の神様のさじ加減ひとつなのである。

 今年の大会はどんな天気になるのだろうか。
 週末の空模様が気になりだした頃、思いもよらない天気予報が発表された。
「週末は強い寒気が関東南部にまで南下し強烈な寒さに」
 これまでの大会ではなかったような、しっかりとした冷え込みが期待できるかもしれない。
 氷彫刻は制作中の「寒さ」がとても重要だ。寒ければ寒いほど、氷彫刻は精緻に美しく作ることが可能になる。
 強烈な寒さの中での氷彫制作。
 今回は、いつにもまして ハイレベルな戦いになりそうな予感がしている。

 



2019年1月26日
16時30分。

松本城公園。

準備が着々と進められる会場。



天気予報は的中。

この段階ですでに、
気温は-2℃近くまで下がっている。
こんなコンディションはいまだかつてなかった。

平地に雪を降らせる目安となる、
「上空1500メートル-6℃」の寒気が
太平洋側まで南下して、
松本はすでに寒冷な大気の真っ只中にいる。

いままで幾度となく泣かされてきた「氷が解ける気温」に関しては
全く心配は要らなそうだ。
むしろ、自分の防寒対策に不備がありはしないかと
不安になってくるほどだ。



例年、大会開始は18時だったが、
今年から17時に繰り上げられた。

16時45分、開会式。
選手整列と選手紹介。




記念撮影。
会場はまだまだ穏やかな雰囲気の中にある。




平田浩一さん(最後列右から2番め)と
今回タッグを組む近藤卓さん(平田さんの左側)。

最後列左から2番めと3番めは
去年タッグを組んだ
加瀬秀雄さんと赤羽目健悟さん。
今年もタッグ継続で臨む。





16時53分、競技開始。
暮れゆく空が、青みを増す。
ちらちらと白いものが舞い始める。



競技開始を待っていたかのように
かなり強い雪が降ってくる。

またもや天気神様の気まぐれか。





作るべき作品の設計図を確認しながら
氷を採寸していく。

各チームに与えられる氷(135kg)は15本。
これらを無駄なく使って大きな作品を作るためには、
工夫した切り分けが必要だ。





平田浩一さん。
ホテルニューオータニの氷彫刻室長。

氷彫刻そのものを専業とする、
日本でも数少ない生粋の氷彫刻師である。

昨年、この時期にイタリアで開催された
「ジェラートワールドカップ」
で日本チームの一員として参戦。

精緻なタンチョウヅルの氷彫刻を制作、
世界を驚愕させた。

松本の大会は2年ぶりとなる。



近藤卓(たく)さん。
ホテルオークラ東京で調理人として勤務する傍ら、
氷彫刻技術を習得。
これまでに様々な氷彫刻の大会に出場し、
受賞経験も多数。




平田さんとタッグを組むのは今回が初。

とはいえ、氷を扱いは手慣れている。

氷の採寸、切断も流れるようにてきぱきとこなす。
明らかにベテランの手腕だ。

 



制作過程の序盤は
彫刻作業は皆無で、
もっぱら氷の積み上げに終始する。

傍目にはとても地味で無骨な作業だが、
大きな氷を取り回す重労働であるのと同時に、
氷を「正しく」積むことに神経を尖らせねばならない
かなり繊細な作業だ。

「正しく」積むとはどういうことか。
それは、氷を地面と水平に美しく積むことであり、
なおかつそれが目的にかなった積み方になっているということだ。

この氷の積み方で、
制作者の力量が早くも違いとなって現れてくる。



17時50分。
平田さんがフォークリフトをオーダー。




切断していない大きな氷を
そのまま積み上げていく。



全体をいくつかの部品に分けて彫刻し、
それをさらに分割して組み上げるという手法が
平田流氷彫刻では、これまで多く用いられてきた。

序盤からフォークリフトを使って
氷の山を高く築いていくのはとても珍しい。



18時15分、
またもやフォークリフトをオーダー。




さらに高く積み上げる。





近くのブースで作業している加瀬さんも
「あれー、平田さん今日は初めからフォークリフト使ってるな。珍しいな」と首を傾げている。

何か、水面下でいつもとは違うことが起こっている。

そんな気がする。

 





平田さんが氷彫刻用の工具を取り出す。





ノミひとつとっても、
平田さんは大小さまざまなものを使い分けている。
ここにノコギリや電動工具を加えると
相当な数になる。




18時。
筋彫りが始まる。






三角ノミを使って、設計図どおりの形を
氷の上にデッサンしていく。

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筋彫りが施された氷。
まだ何が描かれたのかははっきりしない。

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すぐさま、筋彫りの線に沿ってドリルでなぞって
線を深くしていく。

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そして、
チェーンソーの出番。

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チェーンソーの絶大な切削力を活用して、
大まかな肉を削ぎ落とすだけでなく、
平田さんはかなり細かい部分まで加工してしまう。
熟練の技が要求される場面。

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チェーンソーでの切削が終わると、
次は平ノミでさらに削っていく。

 

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グラインダーで曲面を出していく。

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そしてまた、ノミを入れていく。
一つの道具で最後まで、ということはない。
全体のバランスを見つつ、
場所に応じた道具を使い分けながら彫刻作業は進められる。

 

 

 

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できたのは、馬の頭。

観客が平田さんの手元を見て、
「おお、馬だすごーい」
と口々に言う。

具体的な形が見えてくると
観客のテンションも明らかに上るので、
それがまた面白い。




しかし、これはまだまだ序の口。
これからこの氷彫刻は
驚きの変貌を重ねていくことになる。

【2】に続く

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