
それまでは気が向いたときに持ち出すカメラを、仕事の日は必ず持って出かけるようにした。
仕事の後も自宅へ直帰せずに、必ず何かを撮ってから帰ることに決めた。
気が向いたときに撮る写真と違って、自らノルマを課して撮る写真は難しい。
興味があってもなくても、撮るまでは帰らないのだと決めると、撮影に自然と身が入る。
一生懸命に撮影していて、ふと気づいた。
そういえば、しばらく溜息をついていない。
うまく撮れずに四苦八苦しているうち、後悔とか怨嗟とか焦燥とか、平穏な心を侵食してくる負の感情が消えていた。
自分を取り巻く状況は何も変わっていないけれど、遠くの方に淡い光を見た気がした。
振り返るばかりの毎日は相変わらずだったが、この日を境に、溜息の数は少しずつ確実に減っていった。
写真に救われた瞬間だった。
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