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10年連れ添った相棒に
別れを告げた。
トヨタ「 ist 」。
初めての新車。
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クルマなんかに
なんの興味もなかった私に
「どうせだったら1500ccの力のある奴買っとけ」
という父の言葉。
そしてある春の日
彼は
私のところにやってきた。

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一緒に走り始めた日。
これで1500ccなのか、と疑いたくなるほど
彼ははもっさりとしか走らなかった。
やっぱ、クルマなんてこんなもんなのかな、
と思った。

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買ったそのまんまで、
クルマが良く走ると思ったら大間違いだぞ。
洗って磨いて、
パーツ変えて、
メンテナンスして、
可愛がってやって初めて
クルマはしっかり走るようになるんだ。
車好きの上司は言った。

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休日。
彼に初めてワックスをかけた。
ツヤツヤになったボンネットの上を、
落とした水が
ガラス玉みたいになって
転がっていった。
ちょっとだけ
彼のことが
可愛くなった。

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次は
エンジンルームをいじってみた。
アーシングして
点火プラグを交換した。
驚くほど
俊敏なクルマになった。
お前もなかなかやるじゃないか。

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ヘッドランプのHID換装、
燃料、オイルの添加剤、
時には
ちょっとトンデモなグッズまで、
試せるものはなんでも試した。
少し手を入れるたびに、
ちょっとずつ
期待に応えてくれる彼が
愛おしかったから。

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いろんな場所へ
一緒に旅した。
朝日の高原へ。

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秋が近づく
山の道へ。

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夕闇せまる家路を。

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青い月の夜を。

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ススキのたなびく
田んぼ道を。

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限りなく遠くまで、
望んだ場所へと
私を運んでくれた。
何万枚もの写真は
このクルマなしでは
決して撮れなかったものばかり。
彼は最高の
アシスタントだった。

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大粒の雨を弾き返す
銀色の背中。

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湧き上がる
真夏の雲を、

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ため息の出るような
夕焼け空を、

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山に降る
初雪を、
一緒に眺めた。

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小さなお客を
乗っけてドライブしたことも。
すべてが、
何もかもが、
懐かしい。

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桜舞う
よく晴れた日。
最後の
ドライブに
出かけた。

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まだピカピカだった頃と変わらぬ
軽快な足取りで
彼は走った。
「まだまだボクは大丈夫だよ」
そう言っているようで、
胸が痛んだ。

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一緒に走った10年の日々。
このハンドルを通して、
嬉しかったことも苦しかったことも
彼はきっと
感じ取っていてくれた。
そんな気がする。

総走行距離、
12万7176キロメートル。
もうこの数字が
増えることはない。
お疲れ様。
本当に
よく頑張ってくれた。
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そして、
別れの日は
やってきた。

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キャリアカーに載せられる彼を
ただ黙って見ていた。

「やっぱりやめます。まだ乗ります」
そう言いたい気持ちで
一杯になる。
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「それじゃあ、ありがとうございましたー」
業者ドライバーの声で
はっと我に返る。

キャリアカーのエンジンが
回転数を上げる。
ゆっくりと遠ざかっていく彼は
じっと
こちらを見ていた。
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そして、
見えなくなった。
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天気のいい
ドライブ日和には
ふと
今はもういない
彼のことを
思い出す。
高級車ではなかったけれど、
君は最高のクルマだった。
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さようなら相棒。
一緒に走った日々は
とても楽しかった。
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本当にありがとう。
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この度は私どもの要望にお応えいただきありがとうございました。
数年ぶりにこちらの記事を拝見することができ大変嬉しく思います。すでに3回ほど拝見しましたが、素晴らしい内容に毎回心を打たれます。
今後もTamaWakaba様のご活躍を陰ながら応援しております。拙いコメントで申し訳ありません。失礼致します。