平田浩一・赤羽目健吾 氷彫刻『深海のうたげ』 ― 国宝松本城氷彫フェスティバル2024【7】

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まもなく22時。

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平田さんはクラゲ(大)を
徹底的に彫り込んでいる。

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上からのしかかる氷の重さを支えながら、
なおかつ生物的な曲線や
クラゲの触手特有のたおやかさを出すのは容易でない。

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触手も2枚構造になるよう
彫り込まれている。

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22時過ぎ、
平田さんの動きが変わった。

クラゲ(大)の傘に
手を這わせて見当を付けている。

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そして、そこに小さな氷を接着した。

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さらに継ぎ足す。

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せっかく付けた氷を
なぜかノミで削る。

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そして、また継ぎ足す。

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見るからに謎の工程を経て、
クラゲの丸い傘に似合わぬ
あまりにも矩形すぎる出っ張りが出現した。

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これは一体何なのか。

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一方その頃、赤羽目さんは
いまだクラゲ(小)の彫り込みに余念がない。

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クラゲ全体にグラインダーをかけ、
全体をひと繋ぎの曲面にしていく。

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どこにどう氷を継ぎ足して作ったのか
もはや分からない。

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赤羽目さんが磨き上がったばかりのクラゲに
おもむろにお湯を注ぎはじめる。

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世にも珍しい
湯気を上げる氷。

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この「お湯かけ」は
氷像表面の細かい傷を融かし、
表面を滑らかにすると同時に
氷の透明度を上げるための、
いわゆる「仕上げ作業」だ。

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制作序盤でここまでの仕上げをするということは、
このクラゲ(小)が
後から手をいれることが難しい場所へ
設置されることを意味している。

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仕上がったクラゲをスマホで記録する赤羽目さん。

ちなみにこの映像は
赤羽目さんのインスタグラム
で見ることができる。

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22時45分。

クラゲ(小)が
作業用の台座から外される。

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フォークリフトがオーダーされる。

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高所への積み上げ作業が始まるのは明らか。

しかし、この細い氷が入り組んだ造形、
ちょっと動かすだけでも破損のおそれが高い。

二人の緊張感が一気に高まるのがわかる。

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慎重に、
極めて慎重にパレットの上に載せる。

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赤羽目さんもクラゲ(小)と一緒にパレットの上へ。
それをクラゲ(大)の傍らで待ち受ける平田さん。

センチメートルの精度で
パレットの位置が調整される。

僅かな段差でも
そこに引っかかって倒れれば
苦労が水の泡となる。

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パレットが止まったのは、
先ほど平田さんがクラゲの傘の上に
四角くはみ出させた不思議な氷。

あの氷は、
クラゲ(小)を移動させる際、
スムーズに滑らせるための
「受台」だったのだ。

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「受台」は抜群の効力を発揮し、
クラゲ(小)はクラゲ(大)の傘の上へと
じりじりと移動していく。

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僅かな振動も許されない。
息を殺して進められる作業。

こちらも
思わず息を詰めて見守る。

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22時54分。

なんとか所定の位置に収まる。

危ない局面を乗り切った。

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逆さクラゲが動かぬよう、
念入りに接着を行う。

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クラゲ(小)の積み上げが完了。

道のりは半ばだが、
この作品が完成するか否かの
まさに分水嶺となる作業だった。

平田さん曰く、
クラゲ(大)の傘の前縁にあたる部分は
後で接着する予定だった、のだという。

確かに、
あの丸く傾斜した部分がなければ、
パレットを傘に直付けでき、
クラゲ(小)を載せるのが幾分容易になる。

「だけど、先に付けちゃったんですよ、俺せっかちだから」

平田さんはそう言って笑うのだが、
彫刻の手順とか、全体のバランス取りとか、
平田さんなりの計算というものが
そこにあったに違いないのだ。

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23時。

気温、マイナス3.2℃。

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観客もまばら。

静けさの中に
発電機と電動工具の音が響き渡る。

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【8】に続く

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