平田浩一 加瀬秀雄 氷彫刻 『飛翔 ~大空に羽たく鳳凰~』【6】

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午前2時25分。
閑散とする会場。

ディーゼル発電機や電動工具の騒音は相変わらずだが、
不思議と静けさすら感じる。

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ビール箱を3つ重ねた足場の上に
平田さんが上る。

足場はまっすぐに立ってはいない。
絶えずグラグラと揺らいでいる。

いつ落ちやしないかとハラハラするが、
いまだかつて平田さんがここから落ちるのを見たことがない。
多分、これからもないだろう。

不安定な足場の上でも
無意識のうちに
適切なバランスをとることができるよう、
身体が順応してしまっているらしい。

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平田彫刻の白眉ともいうべき
翼への彫り込みが開始される。

最初に翼前縁部を作成。

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前縁部に沿って、ドリルを使い羽根の一枚一枚を彫り込んでいく。

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実際の鳥の翼がそうであるように、
羽根の列ごとに、形状を巧みに変える。

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開始からわずか3分あまり。
翼の大部分が羽根で覆われる。

平田さんはここまで
一度たりとも手を休めず、図面を確認することもせず
一息で彫った。

考えるより先に、手が動いている。

平田さんの頭のなかには
リアルな翼の立体モデルがあるに違いない。

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続けて
風切羽根の作成に入る。

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平田さんが作るのは
今まさに風を掴んで、
大きく羽ばたいている瞬間の翼だ。

風切羽根の先端は、大気とのせめぎ合いで大きくたわむ。
その様子まで再現される。

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風切羽根の一枚一枚を独立させるのにも
チェーンソーを使う。
一見荒々しい道具だが、
使い方次第で、繊細な加工も可能となるのだ。

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ノミを使って、
羽根一枚一枚の薄さを出していく。

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風切羽根の形が整った。

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やや太めのドリルビットを用いて
先程彫った羽根の一枚一枚を
窪ませるように削っていく。
羽根の「薄さ」を表現するための工程だ。

気の遠くなるような作業だが、
恐ろしいほどのスピードで
次から次へと正確に削っていく。

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風切羽根には細いドリルビットで
細かな筋が刻まれる。
羽枝の流れを表現している。

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続けて、
胴体を覆う、丸く小さな羽根を彫る。

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ブロワーで削り屑を吹き飛ばし
作業完了となる。

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右の翼と胴体が
隙間なく羽根で埋め尽くされた。

彫り始めてからわずか20分間の出来事だった。

会場をひと回り見物するくらいの間に
平田彫刻は劇的に変化している。

知らない人の目には
魔法同然に映るに違いない。

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左翼の加工。

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1羽目の翼が仕上がった。

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惜しむらくは、
この驚くべき工程を見届ける人が
あまりにも少ないことだ。

この作業が行われるのは
大抵、最も深い時間帯なのだ。

人目をはばかるようにして、
夜の片隅で氷塊は1羽の鳥になる。

2羽の霊鳥にとっては
ふさわしい誕生の仕方である気がしないでもないのだが。




午前3時30分。

雪が、降ってきた。

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~ 【7】につづく ~

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