平田浩一 中寺吉宣 氷彫刻 ”ファミリー”【9】

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3時50分、
いよいよ仕上げ工程に入る。

あと1時間が勝負だ。

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左肩部分のツノダシの上に
中寺さんが彫った海草のパーツが接着される。

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平田さんは全体のバランスを見ながら
各所に微調整を加えていく。

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中寺さんも細かな部分を修正していく。

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ツノダシと海草が重なり合った部分。

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穴が開く。

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加瀬さんの予言どおり、
終盤になると「スーパータコ足配線」状態だ。

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その加瀬さんはと言えば、
「平田さんたち何も食べてないからね、ちょっと買い出し行ってきます」
と近くのコンビニへ出掛け、
平田さんたちの兵糧を携えて帰ってきた。

完璧にピットクルーをこなしている。

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平田さんの手は一向に止まらない。
この巨大な氷像のどこかが
常に平田さんによって削られ
吹雪のように風に舞う。

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辺りは完全に氷点下なので、
削り屑は解けることなく
体中に白く積もっていく。

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4時12分。

ガスバーナーを使った「透明化処理」が開始される。

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炎によって氷の表面が瞬時に解かされ、再凍結することで
氷はガラスのように透き通る。

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ちなみに加瀬さんによると、
これは氷彫刻専門の道具なのではなく、
自家園芸で使う「草焼きバーナー」なのだそうだ。

さらには、
氷彫刻には様々な道具が使われているが、
氷彫刻専門用具はノミなどの刃物類と専用のドリルビットくらいで、
電動工具やその他の道具類は、他業種用のものを氷彫刻用に転用しているのだそうだ。

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炎にあぶられた部分が透明になっているのがよく分かる。

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炙られたツノダシの体に
鮮明な縞模様が浮かび上がる。

これは、一段低く彫り込んだ表面に
雪パテを塗り込んで凍らせることで、
白く不透明な部分を作り出している。

平田さんが魚のパーツを彫った後、
わざわざドライアイスを載せていたのは
この縞模様部分を確実に凍らせるためだった。

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今回は例年よりさらに込み入った造形なので、
透明化処理にも手間がかかる。

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氷像の裏表、
全ての表面をくまなく処理していく。

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加瀬さんが替えのガスバーナーをさっと手渡す。
もちろん、加瀬さん手持ちのガスバーナーである。

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ツノダシと海草の接着部分の「バリ」を除去する。

終盤で疲れてくると、例えばこういう高い場所に、
上から載せる形で接着したバーツを仕上げる時、
無意識に下からノミを突き上げて削ってしまうことがある。
すると、せっかく着けたパーツが落下して粉々、という事態を招く。
だから、最後の仕上げは細心の注意と集中力が必要だ、と加瀬さん。

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先程透明化処理した場所をもう一度削り直している。
部分ごとに完成させて良しとしないで、
気になる場所を徹底的に直すのが平田さんの流儀だ。

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4時22分。

ここで、平田さんの動きが初めて本格的に止まった。

平田さんは、タツノオトシゴが向かい合う、
本来空洞にするべき箇所を見つめて考えている。

その箇所には「支え」となる板状の氷が残されている。
この支えを取り除けば、もう他に削る場所はない。

数秒後、平田さんは意を決したように動き始めた。

「支え」の部分にドリルを当てる。

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さらに、チェーンソーで切っていく。
だが少し様子が違う。

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「支え」に穴があいている。

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さらに「支え」はドーナツ状に。

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さらに、そのドーナツへ幾重にも筋を彫り込んでいく。
どうやら、「支え」を背景の一部として残すことにしたようだ。

完成後に平田さんにこうした理由を聞いた。

元々は全部抜いて空洞にする予定だった。
しかし、ここを空洞にすると氷像の耐久性は確実に落ちる。
完成後の「保ち」を考えると、抜かずに残すのがベストだと瞬間的に判断した、のだそうだ。

平田さんのその判断が正しかったことが証明されるのは
ずっと後になってのことだ。

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中寺さんも細かい修正作業を続ける。

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4時26分。

修正作業が終わる気配がない。

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制作時間は残り30分あまり。

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修正作業と同時進行で
修正箇所の透明化処理を行う。

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左肩のツノダシも
今度こそ透明になる。

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4時34分。

しかし、まだ修正する。

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巨大なクリスタルガラスと対決しているみたいだ。

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4時38分。

まだ直す。

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4時41分。

平田さんが修正している横で、
中寺さんがブロワーを当てて
削り屑を即時に吹き飛ばす。

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さらに、この段階で
タツノオトシゴの口吻の筋目を彫り直す。

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もう執念としか言いようがない。

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4時43分、
最終チェック。

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4時44分。
ついに台座のクリーニングに入る。

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4時45分。

台座のクリーニングが終わり、ついに完成かと思いきや、
左肩のツノダシの口をさらに直している。

とにかくできる限りとことんやる。
これが平田さんだ。
これこそが平田さんなのだ。

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4時49分、
ついに氷彫刻 ”ファミリー” 完成。

制作時間は12時間ジャストだった。

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またもや、凄まじいものを見てしまった、
という思いに駆られる。

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【10】に続く

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