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平田さんにとってチェーンソーは
切断のためだけの道具ではない。
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例えば、氷に深い穴を穿っていく時。
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グラインダーのように、
氷の表面を削っていく時。
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通常、ノミやグラインダーに持ち替えながら
氷の上をを何往復もさせるところを、
チェーンソーのひと撫でで決着をつける。
制作時間短縮のための必殺技。
但し、ハイパワーのチェーンソーは僅かでも扱いを誤れば
回復不能なミスを招くリスクもある。
チェーンソーを手先のように扱う熟練者にこそ許される技なのだ。
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チェーンソーによる切削に続いて、
平ノミによる荒削りが始まる。
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ノミが氷を削っていくシュッシュッという音が小気味よい。
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ノミを走らせた氷の表面は、
油を引いたかのような光沢を一瞬で宿す。
ノミの刃が鋭い証拠だ。
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途中経過。
生物的な形が見えてきた。
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彫刻中、氷の一部が欠けてしまうというハプニングがあった。
もともと別の氷塊を接着してあるものなので、
場所によっては着きが甘い箇所もある。
たまたまそういう箇所に力が加わると、
接着面を境にして氷が欠けてしまうことがあるのだ。
氷彫刻はそういうデリケートな性格がある反面、
「剥がれたら再接着可能」という強みもある。
削りすぎて氷屑にしてしまったり、
地面に落として粉々にしない限りは
再接着によって壊れを復元できるのだ。
もちろんこのパーツは、
後に再接着されて事なきを得た。
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彫刻作業を続ける平田さんの後ろで
中寺さんも黙々と氷に向かい合っている。
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半分の厚さにした純氷を
チェーンソーで切削している。
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中寺さんが削っている氷には平田さんがあらかじめ作ってきた
「型紙」が貼り付けられている。
型紙は原寸大で作られており、
氷の表面に貼り付けて型紙に合わせて切削していくだけで
寸法通りのパーツを作成することができるメリットがある。
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特に、中寺さんのようなベテランであれば、
型紙どおり正確に切削していくことが可能なので
作業効率化の有効な手段となり得るのだ。
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中寺さんが切り抜いた氷。
まさにあの海洋生物の形だ。
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ということは、平田さんの彫っているこれも、
おそらく海洋生物のあれであろう、
と想像がつく。
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ノミによる荒削りが完了。
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次に、ノミで削った箇所の
角張った部分を
棒グラインダーで削っていく。
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目を入れる。
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紛れもなく、
タツノオトシゴである。
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19時過ぎ、
機材トラブルが発生。
平田さんが使用中の
自前の作業用ライトの球が切れてしまった。
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松本の大会は全体的な照明が当てられているが
場所によっては照度にムラがあったり、
細かい作業には明るさが足りなかったりすることがある。
そこで、手持ちのハロゲンライトを使って
手元の明るさを確保しているのだ。
そのライトが突然切れてしまった。
ちなみに加瀬さんによれば、
大会によっては、自前の照明がなければ作業するのも難しいほど
暗い現場もあるのだという。
氷彫刻は彫刻用の道具だけあればできると思いがちだが、
こういう環境に適応するためのツールもまた必要なのである。
「加瀬さん、ライト貸してー!」
観客席の加瀬さんへ平田さんからリクエストが入る。
この大会の前日まで、
奥日光でそれぞれのライトを使って氷を彫り、
そのまま松本入りしたので、
出場していない加瀬さんもフル装備を持っている。
加瀬さんは二つ返事で了解して、
自分のライトを平田ブースにセットする。
一件落着と思いきや、
加瀬さんの作業はこれで終わらなかった。
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加瀬さんは回収してきた平田さんのライトを
その場で修理するという。
氷彫刻道具でもなければ、
環境適応ツールでもないドライバー一式を片手に、
加瀬さんはテキパキとライトを分解して
電球を交換。
「電球型のライトなんでね、たまに切れることがあるんですよ。
だからいつでも交換できるようにしてあるんです」
あまりの用意の良さに驚かされる。
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そして、修理したライトを作業場へと戻す。
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さらに、
「作業が進んでくると電源のコンセントが足りなくなるからね」
と、延長コードの末端に
これまた携帯していた分配タップを接続。
「平田さんの仕事をゆっくり見に来た」
と言っていた加瀬さんだったが、
やはり加瀬さんはただ観客席に収まってはいなかった。
チーム平田の、専属後方支援ピットクルーなのである。
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制作開始から3時間が経過。
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会場は観客でごった返している。
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