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曹洞宗大本山永平寺。
鎌倉時代初期(1244年)
道元により創建された
禅の根本道場。
創建以来、現在もなお
多くの修行僧がここで寝食し
修行に励む。
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正門。
別名「龍門」。
「仏法の大海に入れば、いかなる小さな魚でさえたちまち龍と化す」という故事に由来する。
石造りの門柱には、
「杓底一残水」(しゃくていのいちざんすい)
「汲流千億人」(ながれをくむせんおくにん)
の碑文が刻まれる。
たとえ柄杓の底に僅かに残った水であっても、
川を流れてやがては多くの人々を潤す。
道元禅師が川で水を使った後、、
柄杓に残った水に仏法を説き川に戻したという故事に由来している。
たとえ豊富にある水でも、
大切にすべきであると道元禅師は説く。

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報恩塔(納経塔)。
第78世貫首、宮崎奕保(えきほ)禅師による
「般若心経百万巻の納経」の発願により平成8年建立。

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勅使門(唐門)。
皇室からの使者の来訪時、または
永平寺貫首の赴任時のみに開かれる特別な門。

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山門。
左右の柱に聯(れん)が掛けられている。
「家庭厳峻不容陸老従真門入」
(かていげんしゅん、りくろうのしんもんよりいるをゆるさず)
「永平寺の家風は非常に厳しいものである。
地位や富がある者でも、
真に仏法を求める者でなければこの門から入ることは許されない」

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「鎖鑰放閑遮莫善財進一歩来」
(さやくほうかん、さもあらばあれ、ぜんざいのいっぽをすすめきたるに)
「この門には扉も錠もなく開け放たれているのだから、
真に仏法を求める者はいつでもこの門から入ることができる」

聯にあるとおり、扉も鍵もない門であるが、この門はこの寺の雲水(修行僧)しか通ることを許されていない。
しかも、その雲水でさえ通ることができるのは
上山と乞暇(こうか)のみ、つまりこの寺での修行の始まりと終わりのニ度に限られる。
雪の季節に上山する雲水は
凍てつくこの山門の前で
足に根が生えるほどの時間を立ったままひたすら待ち、
上山の覚悟を試されるのだという。
この門は物理的に何かを隔てているのではなく、
俗世と聖域を分かつ心の境界線なのだ。
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傘松閣
達磨図
(可崖和尚 筆)

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年代物の窓ガラスを抜けて
廊下を照らす陽の光が美しい。

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階段部分の窓枠は
傾斜に合わせた特別な形状をしている。
そこにはまる窓ガラスも平行四辺形だ。

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僧堂にかかる額「雲堂」。
その名のとおり雲水(修行僧)のための堂であり、
雲水の生活の本拠となる。

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僧堂の中では、雲水それぞれに「単」と呼ばれる、1畳の空間が与えられる。
「起きて半畳寝て一畳」
雲水はこの単の上で座禅を行し、
食べ、そして眠る。

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僧堂の中では
すべての所作について細かな規矩が定められ、
雲水はそれに厳格に従って修行する。

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修行者の領域。

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永平寺の伽藍は山の斜面に沿って建てられており、
各建物を繋ぐ回廊もまた斜面の上にある。

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見上げるほどの傾斜がついた長い階段。
床は長年磨き込まれ、光っている。
雲水たちは毎朝、この回廊すべてに全力で雑巾がけを行う。
「回廊掃除」。
静謐な寺院のイメージとは最もかけ離れた、肉体酷使の修行だという。

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道元禅師の説く禅の修行とは、
決められた作法を厳格に守り、
ただひたすらに座禅(只管打坐)すること。
一心に修行に打ち込むことで、
身体と精神の束縛から自由になる、
「身心脱落(しんじんだつらく)」。
修業によって悟りを目指すのではなく、
修行そのものが悟りである、と説く。

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永平寺の一日は
様々な鳴らし物の組み合わせによってタイミングが図られ進行する。
鳴らし物がひとつ鳴らないだけで、
全山の動きが止まってしまうこともあるという。
この木版も、その重要な鳴らし物のひとつ。

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道元禅師の霊廟「承陽殿」入口にある「定盤香炉(じょうばんこうろ)」。
正式に承陽殿に上殿する時、この香炉で衣を薫じる。

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法堂。
伽藍の最上部に位置する、いわゆる本堂。
説法、法要などが行われる。

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瑞雲閣。
永平寺の賓客接待を行うための部門。

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一文字廊下。

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仏殿。
伽藍の中心に位置する仏殿は、
別名「覚皇宝殿(かくおうほうでん)」。
三世如来(過去=阿弥陀仏・現在=釈迦仏・未来=弥勒仏)を祀る。

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仏殿は勤行の場。
日に三度の勤行、
「朝課諷経(ふぎん)」「日中諷経」「晩課諷経」が
ここで行われる。

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仏殿内部には、禅の逸話をモチーフにした彫刻がはめ込まれている。

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仏殿の床は中国宋代の様式に則り、
石畳となっている。

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仏殿の大扉に彫刻された、永平寺の寺紋「久我竜胆(こがりんどう)」。
元々は村上天皇の流れをくむ久我家の家紋。
道元禅師が久我家の出身という説もあり、
永平寺もまた、久我家と密接な関わりを持ってきた。

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大庫院。
額「法喜禅悦」。
道元禅師の著した、僧堂での食事作法の規矩『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)」の一節、
『是を以て、法は是れ食、食は是れ法なり。是の法は、前仏後仏の受用したもう所たり。此の食は、法喜禅悦の充足する所なり』から。

この額が掛けられているとおり、この大庫院は雲水の食事を作る台所だ。
禅の教えにおいて、食は重要な意味合いを持つ。
食べることは修行であり、また、その食を調理することも修行なのである。
大庫院の総監である典座(てんぞ)老師のもと、雲水自らの手で日々の食事が作られている。
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雲版(うんぱん)。
山内における、重要な鳴らし物のひとつで、
暁天坐禅の終わりや行鉢(ぎょうはつ=食事)などの際に打たれる。
雲版の音が雲を呼び雨を降らせるという言い伝えから、
五穀豊穣を祈り大庫院に掛けられているそうだ。

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大庫院には、調理部門の「典座寮」のほか、
山内の物品や日用品を管理する「知庫寮(ちこりょう)」がある。

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監院(かんにん)とは、
監院老師、すなわち永平寺の総責任者にあたる職位。
永平寺の運営のすべてを掌握する。

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山門の向こうに杉並木「五代杉」が見える。

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ゴミ箱ではなく「護美箱」。

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廊下に差し込む
美しい光。

満足な暖房器具もない修行生活の中で、
陽光は雲水にとって特別な存在になるという。
窓から僅かに入り込んでくる陽光の眩しさ、
その暖かさを身にしみて感じるようになるという。
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毎日訪れるであろう多くの参拝者の、
気軽な感覚とは全く位相が異なる
「修行」という世界が、今この瞬間にも
この場所で営まれている。
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撮影後記
永平寺に初めて行くという方に、ぜひおすすめしたい本があります。
野々村馨・著『食う寝る坐る 永平寺修業記』新潮社
背表紙の紹介文を以下に載せます。
その日、僕は出家した、彼女と社会を捨てて――。道元が開いた曹洞宗の本山・永平寺。ひとたび山門を潜れば、そこは娑婆とは別世界。東司(トイレ)にも行鉢(食事)にも厳格な作法がある。新入りは、古参僧侶に罵倒され、規矩を徹底的に叩き込まれる。さらに座禅に日々打ち込んだ末、30歳の著者が会得したものはなにか? 雲水として修行した一年を描いた体験的ノンフィクション。
ひとりのサラリーマンであった著者は「僕の心には何ものにも癒やすことのできない何かが厚く積もり始め、自分をとりまく社会の何もかもが、次第に煩わしく、うとましくなっていった(同書・後記)」ことから、ふいに永平寺への「出家」を思い立ちます。
そして著者は永平寺の門をたたき、1年間に及ぶ修行生活をスタートさせます。
寝食、座禅、まさに「食う寝る坐る」ことに加え、ルールづくめで徹底的に怒鳴られしごかれる、スパルタな日々。
一般人が抱く仏教という静寂と祈りのイメージとは真逆の世界が広がります。
そんな、一般人が知りえない永平寺での生活に、一人の修行僧「雲水」の視点から迫ったのがこの本なのです。
禅寺での生活に焦点を当てた本や映像は沢山あります。
しかし、そのほとんどが、寺に生まれて修行してまた寺に戻るという「仏教関係者」によって書かれたもので、綺麗な上辺だけをなぞっている感じが拭いきれません。
その点、この著者は一般人が出家してまた一般人に戻るという体験をしています。
この本は我々と同じ、悩める一般人による永平寺ルポなのです。
これだけとっても、この本は大変価値あるものです。
永平寺の門をくぐるのは、昔も今も大部分が寺を家業とする家に生まれたいわゆる「寺の息子」です。
宗派での資格を得ることは、僧侶という家業を継ぐに当たって避けられないイベントです。
でも彼らにとって、出家は自己研鑽とか問題解決行為というよりも車の免許を取ることに近く、彼らの修行を支えるのは「いまは苦しいけれど、これさえクリアすれば・・・」というモチベーションなのかもしれません(もちろん真摯に仏道に励んでいる方もいるとは思いますが)。
気持ちはわかるけれど、我々俗世に生きる者の目には「仏教ってそんなものなの?」という印象に映ります。
しかしこの著者は、日々様々な悩んだ挙げ句、自分と向き合おうとして出家している。
これぞ、仏教に帰依する者の本来の姿勢ではないでしょうか。
永平寺の生活の中で、怒鳴られしごかれ理不尽な体験を重ねる著者ですが、著者の中には開祖道元と禅の教えへの深いリスペクトが通底していて、これが下劣な暴露本などではないことを教えてくれます。
この本を読んでいると、まるで自分が著者と一緒に永平寺の門をくぐり、一緒に修行しているような気分にさせてくれます。
手にして以来、ことあるごとに手にとって、何度も何度も読み返してしまいます。
永平寺は、そこがどういう場所なのか理解しているか否かで、まったく見え方が変わる寺院です。
これから観光で訪れたいという方は、ぜひ事前に一読をおすすめします。
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福井出身です。
我が故郷、シンボルである永平寺をこのように撮影いただき、ありがとうございます。
素敵な描写です。
匿名さん
コメントありがとうございます。
幼少の頃、NHKのドキュメンタリーで知ってから永平寺は私にとって憧れの場所となりました。
何回か観光で訪れましたが、カメラを手にするようになってからは、それまでとはまた違った光景が見えるようになってきたような気がします。
この21世紀の世においても、道元禅師の教えを元に大勢の雲水の方々が日夜修行する、「生きた寺院」であることにも強く惹かれます。
何度でも足を運びたくなる魅力ある場所であるとともに、ほかの観光的寺院とは全く異質なピンと張った空気が流れるところも大好きです。
まさに福井の宝だと思います。
永平寺の近くに住んでるものですが、
永平寺の雲水のスリッパの写真を探していました。
久しぶりに良い写真を見ました。
むかし、某写真家の写真集を見た時にそのアメリカの雰囲気が伝わってきて、まるでそこに行ったような感覚に襲われましたが、この写真も同じ気がします。
助6さん
ありがとうございます。大変恐縮です。
遥か遠くに居住しているにもかかわらず、永平寺には昔から特別な思い入れがあり、何度も足を運んでいます。
長年、私の中で育ってきた永平寺のイメージと、眼前にある永平寺を重ねながら矯めつ眇めつ撮ったことを思い出します。
頂いたお言葉に恥じぬよう、これからも精進していきたいと思います。