長野県安曇野市穂高北穂高 狐島 (ピーちゃん・フクちゃん保護舎)
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どうしても白鳥に会いたくなって、ピーちゃんとフクちゃんのところに行ってきた。
金網越しに白鳥を撮っていたら、世話をしている爺ちゃんがやってきて
「金網越しじゃなくて直に撮ればいいよ」
と入口の戸を開けてくれた。
爺ちゃんが小屋の中に入って木箱に腰掛けるとピーちゃんが嬉しそうにコーコー鳴きながら爺ちゃんのすぐ近くまでやってきた。
「おーよしよし、ピーちゃんどうした?」
爺ちゃんの問いかけに応えるように、ピーちゃんは鳴きながらおじぎをしている。
「よくなついているんですね」
「おらのことを仲間だと思ってるんだよ。まだ幼鳥のころからここにいるからね」
と、爺ちゃんはちょっぴり嬉しそうにはにかんだ。
爺ちゃんもピーちゃんも、多分お互いを家族だと思っている。それはちょっと素敵なことだ。
ピーちゃんは怪我で片翼を失った。
だからもう、白鳥の仲間達と一緒に空に上ることはできない。
けれどもピーちゃんには、代わりに人間の家族ができた。
これが良いことなのかは、実際の所よく分からない。
しかし、あの小屋の中で爺ちゃんと静かで幸せそうな日々を送っているピーちゃんを見ていると、この温かい関係がいつまでも続くように祈らずにはいられない。
写真を撮り終えた私に、爺ちゃんはピーちゃんとフクちゃんの話や、ほかの白鳥たちの話を沢山してくれた。
別れ際に爺ちゃんは、
「チューリップと藤の花が咲いているんだ、撮っていくといい」
と、自宅の庭に案内してくれた。
爺ちゃんの庭に咲く、チューリップも藤の花も見事だった。
きっと、この花たちもピーちゃんのように、爺ちゃんの愛情をたっぷり受けて育ったのだろう。
爺ちゃんに礼を言って、狐島の水田を後にした。
白鳥が来ていた水田はすっかり干上がって、白鳥の暮らしていた所が白い土に変わっていた。
あの賑やかだった冬が幻のようだ。
仲間達がこの水田に戻って来るまであと半年。
それまでに、またピーちゃんとフクちゃんに会いに来ようと思う。
再編集版あとがき
この記事を読み返すたびに、胸がぎゅっと苦しくなる。
この写真に写っているものはすべて、今はもう、どこにもない。
ピーちゃんも、爺ちゃんもいない。
この田んぼにも、白鳥が舞い降りることはなくなった。
愛おしいものは、やがていつか思い出になる。
それは、わかっている。わかってはいても悲しい。
だから、せめてもの思いで写真を撮るのだ。
愛おしいものが存在したという、ささやかな証として。
(2023年3月19日追記)
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