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2015年5月18日。
片翼の白鳥
ピーちゃんが
安曇野を去った。
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犀川白鳥湖のほとりで
すでに冷たくなっているところを
発見された。
キツネに襲われたのだという。
突然の別れだった。
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今更ながら、ピーちゃんのことを繰り返し思い出す。
ピーちゃん。
君はやっぱり特別な白鳥だった。
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メスのコハクチョウ
ピーちゃんが生まれたのは
2003年の夏。
安曇野から遥か北の彼方、
北極圏の平原。
その秋、
両親や兄弟たちとともに
4000キロの空の旅をして
この安曇野にやってきた。
ピーちゃんにとって初めての渡りの旅。
そしてそれが、
最後の旅となった。
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冬の安曇野は多くの白鳥たちで賑わう。
ピーちゃんもその中の1羽だった。
朝、白鳥たちはねぐらを飛び立ち、
数キロ離れた餌場である狐島の田んぼに向かう。
日中はその田んぼでのんびりと過ごし、
夕方、また仲間たちと一緒にねぐらへと帰る。
そんな日々が何日か続いた。
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寒さが厳しさを増す12月のある日。
普段どおりの餌場への往復。
いつもの田んぼの周りを飛んでいた時のことだ。
突然、ピーちゃんの全身に衝撃が走った。
水田のあちこちに立てられた電柱。
その電柱を結ぶように、何本かの電線が渡されている。
ピーちゃんは飛行中に、その電線に衝突した。
飛ぶことにまだ不慣れだったピーちゃんは
目の前に迫る電線を避けることができなかった。
電線に翼を強く打ちつけたピーちゃんは
もはや飛び続けることはできず、
そのまま数メートル下のアスファルトに叩きつけられた。
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白鳥たちが羽ばたく時の速度は
遅い時でも時速20キロは超えている。
さらに、鳥の骨格は
軽量化のため中空構造になっており、脆い。
ピーちゃんが電線に激突した時の衝撃は
ピーちゃんの翼を破壊するのに十分だった。
冷たいアスファルトの上で
血だらけになって横たわるピーちゃん。
空の向こうに、両親や仲間たちの声が遠ざかっていった。
その日、運命は一瞬のうちに
ピーちゃんから空を奪い去った。
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飛べなくなった白鳥は弱い。
餌を求めて自由に移動することも、
外敵から咄嗟に逃げることもできない。
「飛べる」という最大の強みを奪われる時、
自然界において、それは死を意味している。
ピーちゃんはまさに、死へと向かう坂道をゆっくり転がり始めていた。
だがその時、
傷ついた身体が何者かに抱え上げられた。
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ピーちゃんは心優しい人々によって
動物病院に運び込まれた。
右の翼が完全に折れていて、
その翼を切断しなければ、命が危うかった。
すぐに大手術が始まった。
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手術は成功した。
瀕死のピーちゃんも人々に見守られながら
日に日に回復した。
あの日、電線の下で息絶えようとしていた1羽の幼鳥は
片翼の白鳥「ピーちゃん」として
二度目の命を与えられたのだった。
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ピーちゃんが寂しくないように、と
白鳥たちが餌を食べにやって来る狐島の田んぼのほとりに
ピーちゃんの保護舎が建てられた。

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春、夏、秋、冬、
ピーちゃんはこの保護舎で暮らした。
賑やかになる冬は、
田んぼにやって来る仲間たちと、声を合わせてはしゃいだ。
春になって
仲間たちが去った後も、
ひとりこの田んぼを見守った。

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季節が何回か繰り返されたころ、
ピーちゃんの保護舎に
同じく翼に怪我をした「福ちゃん」がやってきた。

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福ちゃんは白鳥としてのプライドが高くて
いつもピーちゃんはくちばしで突っつかれて、
教育的指導されることも多かったけれど
もう、ひとりぼっちではない。

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ピーちゃんは
爺ちゃんのことが大好きだった。

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爺ちゃんは狐島の田んぼにやって来る白鳥たちを
まるで自分の孫のように可愛がった。
雪の日も、風の日も、朝夕2回、
氷の張った冷たい田んぼに自ら入り
白鳥たちへの餌やりを欠かさなかった。
「米だけでは体に悪いから」
爺ちゃんは白鳥たちの健康を気遣って
自分の畑で青菜を育て、
それを白鳥たちに振る舞った。
白鳥たちが北に帰った後も、
一年を通して、ピーちゃん達の世話を続けたのは爺ちゃんだった。
そんな爺ちゃんにピーちゃんは
すっかり懐いていた。

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時折、爺ちゃんはピーちゃんの首の付根に触れる。
するとピーちゃんは、片方の羽根を一生懸命バタバタさせて喜ぶ。
白鳥が首の付根に触れさせるのは、完全に心を許した相手だけだ。
爺ちゃんとの肌での触れ合いは、
かけがえのない信頼の証だった。

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ピーちゃんは爺ちゃんにコーコーと鳴いて甘える。
爺ちゃんはそれに、おうよしよし、と答える。
形は違えど、それはまさに爺ちゃんと孫そのものだった。
ピーちゃんにとっては、自分の両親と過ごした時間よりも
爺ちゃんと過ごした時間のほうがずっとずっと長い。
ピーちゃんにとって爺ちゃんは
たった一人の家族だった。

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長い間、保護舎の中で暮らすうちに
ピーちゃんはいろいろな遊びを覚えた。
保護舎にかけられたビニール製のネットは
ピーちゃんにとって格好の遊び道具だった。
暇さえあれば、ネットをくちばしでパクパク。
次第にほころんでくるネットを飽きもせずについばむ。
紐が垂れてくれば、それをさらに引っ張る。

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爺ちゃんや白鳥の会の人達が
幾度となくネットを繕っても
ピーちゃんはお構いなしだ。

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そのうち、間断なきピーちゃんの攻撃に耐えかねて、
ネットのあちこちに穴が開き始めた。
ピーちゃんは悪びれるでもなく、
むしろ満足気にその穴から顔を出すのだった。

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保護舎に近づいていくと、
ピーちゃんが穴からひょっこり顔をのぞかせ、
「コー」と一声鳴く。
こんにちは、とでも言っているようだった。

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爺ちゃんこっちにこないかな。
遠くの畑で仕事をする爺ちゃんの姿を
ピーちゃんはよく目で追っていた。

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夏、白鳥たちの訪れる田んぼは
一面の緑に変わる。
保護舎の周りには
爺ちゃんの育てた夏の花が
一斉に咲いた。

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秋。
夏から秋の花へ。
風が少し冷たくなる。

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もうすぐ、冬と一緒に
仲間たちが戻ってくる。

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冬。
ずっと静かだった田んぼが
再び仲間たちの声で満ち溢れる。
ピーちゃんも保護舎の中で
仲間に負けじと
片翼でバサバサと羽ばたいてみせた。

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時折、雪が辺りを白く染めた。

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そして季節が何度も何度も
巡っていった。

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2014年1月。
安曇野で過ごす11回目の冬。
だが、保護舎にピーちゃん達の姿はない。
この時期、多くの白鳥たちで賑わっているはずの田んぼにも
白鳥の気配はない。
すでに高齢だった爺ちゃんは
この冬、体調を崩した。
大好きだった白鳥たちの世話が
できなくなった。
ピーちゃんたちも
ここにいることはできなくなった。
静まり返った田んぼの片隅に
ピーちゃんたちが暮らした保護舎だけが
ひっそりと立っている。

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いつもネットを突いて破ってしまうピーちゃんのために、と
プレゼントされた遊び道具が
風に揺れていた。

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初めて見る
白鳥たちのいない
狐島の田んぼ。
あの賑やかな冬はもう
帰ってこない。
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ピーちゃんたちの引っ越した先は
毎冬多くの白鳥たちが集う
犀川白鳥湖のほとり。
屋根のない空を見るのは
何年ぶりだろう。

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ピーちゃんたちは
自由になった。
でもここには、
危険から守ってくれる家はない。
大好きな爺ちゃんもいない。
この場所で、暮らしていけるだろうか。

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そんな皆の不安をよそに、
ピーちゃんは
すこぶる元気な姿をみせてくれた。
人間を怖がらない、不思議な白鳥たち。
たちまち観光客のアイドルになった。

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3羽の中でもピーちゃんは別格で、
自分を白鳥と思っていないフシがあった。
日中は、観光客用の駐車場を
パトロールするかのように歩きまわり、
ベンチの上に置いてあったカメラマンの機材を
くちばしで引っ張って地面に落としてみたり、
からかい半分に白鳥に手を出す人間の子供に
教育的指導をしたりしていた。

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その堂々たる暮らしぶりが
頼もしかった。

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いろいろな面で白鳥離れしていたピーちゃんだが、
その一方で、白鳥としての魂も忘れてはいなかった。
仲間たちが北の果てに去り、
静けさを取り戻した白鳥湖。
春の日差しの中で、
ピーちゃんが勢い良く水面を蹴る。
片方だけの翼で懸命に羽ばたきながら、
何度も何度もよろめきながら、
それでも前へ前へと進む。
いつか、仲間たちと再び大空へ舞い上がる日のために。
たとえそれが、決して叶わぬ夢だとしても。

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夏。
黒々とした濃い緑に包まれる白鳥湖のほとり。
何度かふらりと一人旅に出かけて
何日間も姿を見せず
皆を心配させたピーちゃんだったが、
そのたびにケロリとした顔で帰ってくるのだった。

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そんなピーちゃんのたくましさに驚かされたが、
草むらでくつろぐピーちゃんの顔をふと見ると、
そのくちばしにはいつの間にか、
細かなしわが幾重にも刻まれているのだった。

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そうか。
ピーちゃんはもう10年も生きているのだ。
人間で言えば、すでに80歳を越えた、
立派な婆ちゃんなのだ。
ピーちゃんも、
いつしか大好きな爺ちゃんと
同じ年頃になっていたのだ。
爺ちゃんと孫の関係も、
爺ちゃん婆ちゃんの間柄になってしまった。
「でも、私はまだまだ元気」
ピーちゃんは、そんなふうに
首をすっと伸ばして立っていた。

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これが、私にとってのピーちゃん最後の写真。
この後も、何度かピーちゃんには会いに行っている。
その度、ピーちゃんは出かけて留守だったり、
カメラを持っていなかったりで、
その姿を写真に残すことはできなかった。
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2015年5月20日。
『コハクチョウ「ピーちゃん」天国へ』
朝刊の紙面で、ピーちゃんの死を知った。
馴染みのAさんの話では、
ピーちゃんは白鳥湖のほとりに葬られたとのことだった。
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久しぶりの犀川白鳥湖。
白鳥たちの姿は見えなかった。
ピーちゃんの死後、福ちゃんともう1羽の白鳥もこの場所から
犀川の下流へと去っていったという。
白鳥がいない夏の安曇野。
見慣れぬ景色だ。
ピーちゃん!と呼べば
いつものようにそこら辺の茂みから
「コー」と鳴きながらピーちゃんが顔を出すような気がした。
でも、白鳥湖のほとりは
いつまでたっても静まり返ったままだった。
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白鳥たちが集う餌場の横に
ピーちゃんの墓はあった。
「ピーちゃんと名も無き仲間達ここに眠る」
大きな丸太を刻んだ、立派な墓標の前に
何輪もの野の花が手向けられていた。
ピーちゃん、
君は最後まで、皆に愛された白鳥だった。
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君のいない安曇野は
ほんとうに寂しい。
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これからも多くの仲間たちが
この場所を訪れることだろう。
どうか、この場所から見守ってほしい。
仲間たちの旅の無事を、
人間と白鳥との愛おしい関係が、
この先もずっと続いていくことを。
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君のことはずっとずっと忘れない。
ありがとう。
さようなら。
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この記事を
ピーちゃんと、
安曇野を訪れる全ての白鳥たちに捧げます。
球 わかば
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あとがき
自然界に生きる白鳥として、本来であれば「死すべき鳥」であったピーちゃんがここまで命を繋いできたのは多くの人々の尽力があったからこそで、感謝の思いは絶えません。
白鳥の会の方々はもちろんのこと、長年、ピーちゃんに寄り添った爺ちゃん、爺ちゃんが体調を崩した後、世話を引き継いだ山本さん。
ピーちゃんは山本さんにもよく懐いていました。
ピーちゃんについてまず思い出すのは、ピーちゃんが「人間とコミュニケーションをとろうとする」白鳥だった、ということです。
人間には人間の言語とコミュニケーション方法があり、それは、白鳥もまた同じで、相容れるものではありません。
人間が白鳥の群れに呼びかけても、白鳥は素知らぬ顔です。
しかし、ピーちゃんは違いました。
幼鳥の頃から人間に接していたピーちゃんは白鳥と同じく、人間も自分の仲間だと思っているようでした。
保護舎の前で、「ピーちゃん!」と呼びかけると、いつも「コー」と一声鳴いて応えてくれました。
また、爺ちゃんが世話のため保護舎の中に入ると、翼をバタバタさせて大喜びしていました。
人間もピーちゃんを愛し、ピーちゃんもまた人を愛していたような気がします。
それは、人間と白鳥の幸せな一つの関係でした。
そんな白鳥離れしていたピーちゃんはやはり野生の白鳥から見れば異端児であり、同居の福ちゃんからは頻繁に怒られていましたが、長年同じ屋根の下で暮らすうちに福ちゃんもピーちゃんに対していつしか寛容になっていきました。
その辺の人間臭さも、なんとも微笑ましいものでした。
以前、爺ちゃんからピーちゃんのことをいろいろ聞きました。
ピーちゃんを保護した当初、保護舎の中だけでは可愛そうだ、と田んぼに仲間たちが来ている日中だけ、ピーちゃんを田んぼに放って自由にさせたことがありました。
しかし、片翼のピーちゃんは必然的に野生の白鳥の中で最弱の存在となってしまい、仲間たちから激しくいじめられたそうです。
しかし、ピーちゃんは夕方になってその仲間たちがねぐらに帰ってしまうと、田んぼから上がって、飛べない身体で、アスファルトの道路をトコトコ歩いて仲間を追いかけました。
そのピーちゃんの姿がなんとも切なかった、と爺ちゃんは言います。
それから、ピーちゃんは保護舎の中だけで暮らすようになりました。
その後10年近く保護舎で暮らしたピーちゃんですが、最後は野生の白鳥として、広い空の下で一生を終えました。
長年の人間との生活によって白鳥ばなれしていたかのように見えたピーちゃんも、全く野生を失ってはおらず
むしろ、驚くべき生命力を我々に見せてくれました。
白鳥の生命力は我々が考えているほどか弱いものではありません。
人間が多少働きかけたからといって、直ちに失われてしまうものでもありません。
ピーちゃんは、人間と白鳥の関わり方について我々に問いかけます。
白鳥たちには極力干渉せず、放任するのが最善なのか。
餌付けは悪なのか。
そもそも、野生とは何か。
白鳥と人間、互いに感情を持つ生命として、どう関わり合っていくべきなのか。
安曇野の白鳥を取り巻く状況は年々変わりつつあります。
以前のように、人と白鳥が身近に触れ合うことも難しくなりました。
しかし、白鳥と人間の関わり方については、まだまだ議論が尽くされていないように思います。
そういう状況の中、白鳥たちとの関わりが紋切り型に制限されていくことに、私は強い疑問を感じています。
11年間、この安曇野で暮らしたピーちゃんから学ぶべきことは、まだまだ沢山あります。
私は、白鳥を愛するひとりの人間として、我々と白鳥がより良く共存できる安曇野の未来を願ってやみません。
球わかば
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