長野市 善光寺境内
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夕暮れの善光寺境内で
1匹の猫を見つけた。
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竹垣の中で佇む猫に
観光客の子供が「あ、猫だ!」と駆け寄る。
猫は「ああ、面倒くさい奴が来たな」と
さっと身を翻して植え込みの中に消える。
子供は「あー、行っちゃった」と諦めてその場を去る。
しばらくすると
猫は植え込みから出て
こっちに向かってきた。
その猫は私を見て
ぬーん
と話しかけてきた。
それは茶トラのメス猫だった。

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これまでに遭遇した猫の95%超に
顔を合わせた途端、
警戒・畏怖・嫌悪・逃走され続けてきた私にとって、
それはあまりにも稀有な体験だ。
驚いている私に彼女はまた
ぬーん、
と鳴いた。

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最初はなんとなく、
人恋しさで甘えてきたのかな、とも思ったが、
どうやらそうではなくて、
彼女は私に何かを尋ねているのかも、と思う。
猫語的に、語尾に「?」がついているのが分かる。

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それは、
「お腹すいたけど、ご飯はどこなのか?」
かもしれないし、
「私の子供を知らないか?」
なのかもしれなかった。
猫と仲良くした時間が極めて少ない私には、
そういう猫語の機微なニュアンスが理解できない。
ただ、彼女は私に一生懸命なにかを尋ねている。
それだけはなんとなく分かった。

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彼女はそうやって懸命に私に質問するのだが、
猫語を解さない私は
ついに彼女の期待に応えることはできなかった。
やがて彼女は、
話が通じないことを理解したのか、
まったくもう、
という感じで歩き出す。

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山門脇に回り込んだ彼女は
キョロキョロしながら
あたりを歩き回る。

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ベンチの裏側や
壁の隙間をくまなく覗いて回る。
やはり、なにかを探しているみたいだ。

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一体何を探しているのか。

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でも時折、
私の方を向いて
「本当にお前は知らないのか?」
という顔をする。
申し訳ない。

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探すことにちょっと疲れた様子。

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山門の2階に上る階段の上で
ちょっと休憩するらしい。

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一息つく彼女をしばらく見ていたら、
急に彼女は「ハッ!」という顔をした。
猫がハッとする顔をするわけないのだが、
たしかにそういう顔に見えた。
どうやら、彼女は遠い視線の先に
目的の何かを発見したようだった。

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そして彼女はさっと身を起こすと、
そちらの方向へ
一目散に走っていった。
結局、彼女は一体何を探していたのか。
それは
いまだに謎のままである。
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