長野県大町市 平
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2018年
12月30日。
年末恒例になったカモシカポイントへ向かう。
ここ何回かは空振りが続いている。
この日もまた、
彼らの姿は一向に見つけられなかった。
しかし、なぜか
「今日は必ず会える」という予感が止まらない。
不思議と諦める気にならない。
そういうジリジリとした変な感覚に包まれながら
山の中を行ったり来たりすること3時間余。
発見した。
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馴染みの美しいカモシカ。
今回は、
子連れだった。

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子供。
まだ、顔立ちが幼い。

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しかし、幼獣といえども
体躯は立派なカモシカだ。

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母の横顔。

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母親は、山の中で私に会ったことに
ちょっと面倒臭そうな顔をして、
そそくさと先を急ぐ。

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子供は、
見慣れぬ人間を、不安と好奇心が半々な表情で凝視する。

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だが、
どんどん先に行ってしまう母親に気づくと
慌てて後を追う。

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親子は
冬枯れの木立の向こうへと
小さくなっていく。

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その親子の後から
もう1頭のカモシカが現れる。

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多分、さっきの母親に求愛中のオスだろう。

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興味深いのか、
かなりの時間私と向き合ってくれたが、
どんどん離れていくさっきの親子のことを思い出すと、
急いで後を追いかけ、
木々の向こうに消えた。

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12月31日、大晦日。
カモシカは雪の谷底にいた。

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今年は雪が少ないとはいえ、
急峻な斜面を下っていくことは難しく、
近づいて撮ることはできない。
遠くから観察することにする。
雪を掘り返して、
その下にある緑の草を食べている。

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今日も親子一緒に行動している。
子供が母親に近づく。

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母親の掘った雪穴に
横から顔を突っ込んで草を食べる子供。
微笑ましい光景だ。

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そしてやはり今日も、
もう1頭が行動を共にしている。

おそらく、この「親子ともう1頭」というのは、
人間のように核家族として暮らしているわけではなくて、
メスが発情するタイミングを逃さぬよう、
オスが子連れのメスに寄り添っているからだ、と思うのだ。
オスのほうがいつもメスを追いかけるような動きになるのは、
そのためなのではないか。
そう思った理由については後述する。
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母親が突然立ち止まって、
顎を突き出して何かを探っているような素振りをする。

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すると、
顔を近くの枝に何度も擦りつける。
「マーキング」だ。
野生のカモシカのマーキングを見るのは初めて。

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カモシカは目の下にある「眼下腺」から出る分泌液を
様々なものに擦りつけて匂いをつけ、
自分の縄張りを主張する。

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マーキングをしたあと母親は、雪の谷底に立ったまま
微動だにしなくなってしまった。
望遠レンズを通してみると、
喉のあたりと口元が時折少し動いている。
たぶん反芻(消化のための再咀嚼)だろう。
こうやって、雪原の中にほとんど動かずに止まっている彼らは
樹木や岩と同化してしまい、遠くからはほぼ発見不可能になる。
彼らなりに編み出した防衛策でもあるのだろう。

この冬は雪が少なく、
例年に比べて、彼らは自由に山の中を行き来できているようだ。
そのせいもあって、
彼らと遭遇できる確率も下がってしまう。
いつもよりもかなり会うのに苦労したが、
とりあえず、
元気な姿を確認できてよかった。
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先述の「メスの後をオスが追従」ということについて、
9月に撮って、そのままお蔵入りになっていた写真が
参考になるかもしれないので掲載したい。
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雨の日。
青々とした草むらの向こうに
大きなカモシカがいた。

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片角で、かなり歳をとった個体だ。
カモシカの角は、ニホンジカのように毎年生え変わることはない。
生まれてから死ぬまで角は伸び続ける。
だから、途中で折れてしまうと
そのまま、このように片角になることもある。

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風貌と眼光に凄味がある。

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草むらの中で、
自分の気に入った種類の草を選んで食べながら
ゆっくり斜面を登っていく。

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まとわりつく雨が鬱陶しいのか
時折、雨払いで首を振り回す。
たくさんの水滴が
辺りに飛び散る。

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ふいに、斜面を登るのをやめ
後ろを振り返るカモシカ。
何かを目で追っている。

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すると、その視線の先の草むらから、
もう1頭のカモシカが現れる。
こちらも立派な角を持った個体。
これぞカモシカという体型をしている。

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季節は秋。
カモシカの繁殖期が始まる頃だ。
この個体は、
恋したオスなのではないか。

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「恋してる」と思ったのは
この距離感を保ったまま、
ずっと後を追っているからだ。

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いつまでたっても
この変な距離感は変わらず。
この時期はまだ「片思い」のようだ。

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カモシカのオスは、
こうやって秋の早いうちからメスの後に付き従い、
メスがその気になるのを
気長に待っているのだろうと推測する。

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彼らには「ビビビ婚(死語か)」など存在しない。
長い時間をかけて
恋の距離感を
地道に縮めていくのだ。
彼らの恋路に
幸多からんことを。
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