追跡、謎のニホンカモシカ

長野県大町市 平

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「いったい、どっちなのか?」

分かっていたつもりになっていたものが
ふたたび謎に包まれる。

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謎のニホンカモシカ
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

事の顛末は
こうなのである。

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4月1日。

いつものカモシカの棲みかへ
様子を見に行った時のことだ。

この日、運良く馴染みのカモシカに会うことができた。

しかし、困ったことがあった。

2頭一緒にいたのだ。

2頭のニホンカモシカ
EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM + EXTENDER EF2×III

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彼らが2頭でいるのを見るのは
これが初めてではなかった。

昨年の12月、この2頭が
同じように仲睦まじく一緒にいるのを
この眼で見て、写真に収めている。

この馴染みのカモシカはオスだ、
と私は思った。
なぜなら、かなり体格が良かったことと、
「角輪(ツノの模様)の間隔が揃っているのはオス」
という説があったからだ。

カモシカの繁殖期は初冬。
そういう季節ということもあって、
年季の入ったオスが
若いメスのカモシカと恋に落ちた、
と考えたのだ。

2頭のニホンカモシカ
EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM + EXTENDER EF2×III

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しかし、ニホンカモシカは
基本的に単独行動の獣だ。
オスとメスが一緒に行動するのは
繁殖期に限られる(と思う)。

あれから4か月余り。

いまだに夫婦で
仲良く行動しているというのは
どこかおかしい。

もしや、
私のカモシカ達に対する見立てが
根本的に間違っているのではないか。

そう思えてきた。

その後、
この謎をなんとか解明したくて、
何度も何度も彼らの場所に足を運んだが
なぜか一度も会うことは叶わなかった。

そればかりか、彼らの足跡すらも見つけられない。

一体どこへ行ってしまったのか。

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4月22日。

北アルプスの麓にも
芽吹きの季節がやってきていた。

この日も私は
彼らがどこかにいないかと思い
いつもの山に分け入る。

そこで、やっと手がかりを発見した。

タラノキに絡みついたニホンカモシカの冬毛
iPhone6s

芽吹いたばかりの1本のタラノキに
白い毛が絡みついている。

毛の質感や、絡みついている場所から考えて
カモシカの体毛に間違いない。

この時期、カモシカは寒さを耐えるための冬毛から
涼しい夏毛に「衣替え」を行う。
その時期の彼らが山の中を歩くと、
木の枝などに抜けた冬毛が絡みつくのだ。

ちなみに、これらの置き土産は
野鳥にとって、巣作りのための
絶好の建材となるそうだ。

とにもかくにも、
カモシカたちはまだこの山の中にいる。

生存確認がとれただけでも幸運だった。

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さらに幸運は続いた。

見つけた。

この顔つき、
馴染みの個体に間違いない。

EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM

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厚手の冬毛が抜け落ちて
全体的にかなりスリムなシルエットに変わっている。

EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM

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突然の人間の出現に
警戒してこちらを凝視する。

ニホンカモシカは
ニホンジカのように
見境なく逃げ出したりしない。

警戒心と好奇心の眼差しで
じっと相手を見定める。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM

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やがてこちらが無害だと理解したのか、
カモシカは食事を始めた。

地面から顔を覗かせる
さまざまな植物の新芽に
鼻を近づけて
丹念に匂いを嗅いでいる。

その草が食えるか食えないかの判断は
嗅覚によっているようだ。

草を食べるニホンカモシカ
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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嗅覚による吟味の結果
食べ始めたのは
フキの葉。

こんなに苦いものをよく生で食べるな、と思うが
別に気にしていないらしい。

というより、フキの葉を選んで食べているところを見ると
むしろ好物なのかもしれない。

若いフキの葉を食べるニホンカモシカ
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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横顔。

目の下に見える異物のようなものは眼下腺。
ここから出る分泌物を樹木などにこすりつけて
縄張りのマーキングを行う。

ニホンカモシカの横顔
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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この個体に出会ってもう何年も経つが
会うたびに
風格が増しているように思う。

均整の取れたその風貌は
健在だ。

ニホンカモシカの顔アップ
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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そしてこの日、
この個体の決定的な行動を目にする。

それは、カモシカの放尿だ。

カメラを構える私のすぐ目の前で
悠々とおしっこをし始めたのだ。

放尿するニホンカモシカ
EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM

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写真家の宮崎学氏によれば、
ニホンカモシカの雌雄を見分けるポイントとして
「放尿時の姿勢」があるという。

放尿時、オスがいわゆる「立ちション」に近い姿勢なのに対して、
メスは腰をぐっと下に落として用を足すので
放尿の様子によって雌雄の判別は容易である、と。

このカモシカは
腰を落として放尿している。
つまり、
この個体はメスである可能性が高い。

いままでオスだと思っていたこの個体は
実はメスだった。
ということは、
パートナーだと思っていた若い個体は
子供なのではないか。

カモシカは子供を生むと
1年間は生活を共にするという。

子供が生まれるのは初夏。
冬の間、2頭のカモシカが一緒に過ごしたとすれば、
それが夫婦ではなく、
親子であったという方が容易に説明がつく。

この馴染みのカモシカは「母」、
つまり「メス」
だったのだ。

しかし、この日
もう1頭の、おそらく子供であろうカモシカの姿は
目にすることができなかった。

EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM

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この日、
もう一つの発見があった。

「ため糞」場だ。

ニホンジカは
東大寺境内の暮らしぶりからも分かるように
あらゆる場所で
好き勝手にフンをばらまく。

でもカモシカは
フンをする場所が決まっていて
いつも同じ場所に来て用を足す習性がある。

その「ため糞」場を
ついに見つけることができた。

ここは、確実にカモシカの定期巡回コースに入っている。

これからは遭遇率がアップできるかもしれない。

生態学的な写真ですので
抵抗感のない方は、
クリック拡大してご覧ください
↓ ↓ ↓ ↓ ↓

ニホンカモシカのため糞
EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM
ニホンカモシカのため糞
EOS5D Mark III + EF70-200mm F2.8L IS II USM

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5月4日。

親カモシカの生息地から
さほど遠くない場所で
仔カモシカを見つけた。

親離れ子離れの季節を迎えたのか、
近くに他のカモシカの姿は見えない。

ニホンカモシカの若獣
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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角はまだ小さいが、
風貌はかなり親似だと思う。

これから美しいカモシカに
育っていくことだろう。

ニホンカモシカの若獣
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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人前で堂々と食事を始めるくそ度胸も
親譲りか。

イタドリの芽を食べるニホンカモシカの若獣
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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以前に会ったときよりも
格段に落ち着いている。

イタドリの芽を食べるニホンカモシカの若獣(アップ)
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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イタドリの新芽を
美味しそうに食べていた。

イタドリの芽を食べるニホンカモシカの若獣
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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好奇と警戒の眼差しで
こちらをじっと見つめる。

ニホンカモシカの若獣の顔
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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ニホンカモシカの若獣の顔(アップ)
EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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眼下腺を松の幹にこすりつけて
縄張りのアピールをしている。

まだ若いけれど
すでに小さな山の主なのだ。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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そうして、
若いカモシカは
足早に木立の中へ姿を消した。

別々の暮らしになったとはいえ
親子ともども
元気に生きていって欲しい。

EOS5D Mark III + EF500mm F4 L IS USM + EXTENDER EF2×III

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緑濃い季節を迎えて、
もう彼らの姿は
容易には見つけることができなくなってしまった。

次はいつ会えるのだろうか。

ふたたび彼らと
森の中で視線を合わせるその瞬間を
楽しみにしている。

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