【303飛行隊】【306飛行隊】【救難隊・室屋義秀】【飛行教導隊-前編】【飛行教導隊-後編】
石川県小松市 航空自衛隊小松基地 小松基地航空祭2023(10月7日)
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コックピットからパイロットが去った096号機。
もちろん、
そのまま静かにエプロンに佇む、
というわけではない。
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すぐさま整備員が機体に取り付き
飛行後点検(ポストフライトチェック)を開始する。

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テニスコートに匹敵する大型戦闘機だが、
その機体は精密部品の集合体。
機体のわずかな異常も見逃すことはできない。

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ネジ一本の締まり具合さえ、チェックの対象。

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教導隊のパイロットが機体の潜在能力を全て引き出せるのも、
日々完璧な整備を心がける彼らがいてこそ。
飛行隊の屋台骨たる存在なのだ。

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アグレッサーの機動展示の準備が始まる。
搭乗前、パイロット自ら、時計回りに機体チェックを行う。

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ハーネスを締め、搭乗準備完了。

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右足には、機動展示の演目を記したメモ。
細やかで美しい手書き。
戦闘機乗りの緻密な仕事ぶりを垣間見る。

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整備員とのコミュニケーション。
やはり、ワンチームなのだな、と思う。

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搭乗開始。
乗り込むのは
青色デジタル迷彩の087号機。

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前席で087号機を操るのは
「RALF」1等空尉。

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整備員の手を借り
ベルトを結着する。
これでパイロットは機体と一心同体となる。

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機上の人になった途端、
表情が変わる。
金属の鷲を操る
「猛鳥使い」の風貌だ。

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ヘルメットのバイザーカバーに
何やら描かれている。

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一つの星型がロシア国旗と中国国旗で構成され、
その外周には
ロシア語で「Агрессори」(アグレッソリ)、
中国語で「侵略者空军部队」(侵略者空軍部隊)の文字。
いずれも「アグレッサー」を表している。
中央に描かれた飛行機はF15に似ているが、
キャノピー前にセンサーがある特徴から、
ロシア及び中国の主力戦闘機であるSu-27であるとわかる。

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彼らがその類稀なる才能を賭して、
どのような脅威を体現しようとしているのかについて、
このバイザーカバーが全てを物語っている。

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万が一有事となった際、
容赦なく侵攻してくるであろうその脅威をリアルに演じ、
いつか「起こってしまうかもしれない」状況を現示することで、
「その時、どう戦うか」について教え導くのが彼らの任務だ。

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航空祭の花形である彼ら。
だが、華々しさの陰で、
その翼には重く厳しい使命を背負っている。

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時に「化け物」とか「神様」に例えられる
彼らの空戦技術は、
まさにそのためにある。

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機動展示での彼らの飛び方は
素人目から見ても、どこか違う。

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重さ十数トンにもなる巨大な金属の塊を
いとも軽そうに、ヒラリヒラリと操る。

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天地を揺るがすアフターバーナーの轟音をまといながらも、
あたかも静寂の中で舞を舞っているような飛び方をする。

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一切の無駄が削ぎ落とされた、
達人の舞。

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しかし、空を美しく舞うことが彼らの最終目標なのではない。
F15の性能を完全に引き出し、
さらには他国の戦闘機の動きを
操縦技術で再現し演ずること。
それこそが、彼らの戦闘機操縦における真のテーマだ。
こういう端正な飛び方も、
彼らの日々の研鑽から副次的に生み出されたものに過ぎない。

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彼らは地上の数倍にもなる重力に耐えながら、
繊細なタッチで操縦桿を操る。

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操縦桿のわずかな動きが、
数メートルの挙動となって機体に反映される。
その数メートルの蓄積がやがて
空中戦の勝敗を分かつ分水嶺となる。

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空中戦における強さとは、
天才的な感覚の発揮でもなく、
運をいかに味方に付けるかでもない。

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正しい知識を前提に、
正しい状況判断を行い、
効率的で正しい操縦を行うこと。
文字にしてしまえば
なんだそんな当たり前のことを、と思うが、
当たり前のことほど難しく、奥が深い。
それは当事者が一番良く解っている。

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教導隊に所属するパイロットはもともと、
イーグルドライバーの中でも特に、
頭一つも二つも抜きん出た才能の持ち主だ。
教導隊にスカウトされたという事実こそが
それを物語っている。

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天性の感覚で、
自らの得手を増強しつつ不得手を補強して、
他を凌駕することを「天才」と呼ぶとすれば、
まさに彼らは天才の属性を帯びて
教導隊の門を叩いた者達である。

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だが教導隊では、
その天才が通用しない。
教導隊では新入隊員の誰もが、
これまでの身体感覚と経験則に基づいた飛び方が、
いかに不確実なものだったかを思い知らされるという。

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空中戦での強さには理由がある。
状況判断、操縦方法、僚機との連携、等
空中戦を構成する全ての要素にも
また理由がある。
だから、教導隊では無自覚な操縦を是としない。
空での行動の全てに、
目的と理由を求める。
映画『TopGun Maverick』で
マーヴェリックがルースターに放った言葉
「Don’t think, just do.(考えるな、ただ行動しろ)」。
それが、ここ教導隊では
「Think,and do.(考えろ、そして行動しろ)」
なのである。

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なぜ、教導隊では新入隊員に、
そういう空中戦に対する思考の大転換を求めるのか。
それは、教導隊という字のとおり、
彼らが「教え導く」部隊だからである。

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天才の話は、天才にしか通じない。
感覚の世界で生きる者の話を理解するためには、
話者と同等の感覚が必要だからだ。
そういう芽が出るのか出ないのか分からない
一子相伝のやり方では、
部隊全体としての技倆向上は難しい。
だから教導隊では、
空中戦の全てを論理的に捉え、
言語化し、正しく実践する。
そして、それを教える。
あやふやな身体感覚ではなく、
正しい知識を前提に、
正しい状況判断を行い、
効率的で正しい操縦を行うこと。
それこそが真に強くなるための道なのだと。

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「教える」ということも生易しいことではない。
空の上では
ハウツー系Youtuberにありがちな、
相手が無知なのをいいことに
知ったようなことを言って煙に巻くといった
小手先の技は通用しない。
教える側も教わる側も戦闘機乗り、という、
抜刀する前から相手の力量が知れてしまうような
侍の世界である。
上空で一戦交えれば、
自ずと力の差ははっきりと現れる。
結構強い、でもなく
かなり強い、でもない。
師弟関係に説得力を持たせるためには、
「絶対的に強い」
という姿を見せなければならない。

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しかも、相手を圧倒することだけが「強さ」ではない。
時には弱いフリをして相手の油断を誘い、
一気に反転攻勢に出るといった、
「教わる側の弱点を炙り出す」こともまた必要なのだ。
そのためには、常に数手先を読みながら相手をリードして、
自分の書いた空中戦のシナリオに
相手を乗せていかなければならない。
結局のところ、
相手より二枚も三枚も上手でなければ
そもそも務まらない役柄なのである。

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「真に強くあること」が義務付けられた部隊。
教導隊に配属されたパイロットの誰もが、
イーグルドライバーとして
第二の洗礼を受けるという。
磨き上げられたと思っていた自分が
まだ原石に過ぎなかったという現実を突きつけられ、
その日から、
真に光り輝くための厳しい研磨が始まる。
これまでの自分と対峙し、
自己の限界を超えるための試練が続く。
教導隊のパイロットは皆、
そういう血の滲むような努力を背に
いまこの場所に立っている。

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会場上空を自由自在に飛び回った彼らが
地上に戻ってくる。
世にも珍しい極彩色イーグルは
皆の視線をさらって離さない。

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あちこちから鳴り響く
嵐のようなシャッター音に包まれながら
再びあの映画のセリフを思い出す。
「It’s not the plane, it’s the pilot.」
この特別なイーグルが空を舞うのも、
特別な彼らの存在あってこそなのだ、と。

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小松基地航空祭2023
~ 完 ~
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あとがき
航空祭で写真を撮ってWEBで発表する人の中で、私は最も遅い部類に入るのではないかと思う。
持ち前の遅筆も災いして、いよいよ窓の外には雪がちらつく季節を迎えてしまったが、ようやく公開の運びとなった。
カメラを手にするずっとずっと前から何度も訪れた、この小松基地航空祭に対する思いが深いことに加え、私の憧憬で煮しめたような飛行教導隊がそこにいるのだから、多くを語りたくなってしまうのは仕方のないことなのだ。
いろいろと思うようにいかなかった去年の航空祭に比べて、今年はかなり、自分の撮りたいものが撮れたように思う。
飛行機はもちろんだが、それらの飛行機を飛ばしているパイロットを始めとした大勢の隊員への感謝とエールの気持ちで撮った。
飛行機を飛ばしているのは人間なのだから、飛行機に関わる人間もまた航空祭の主役なのだと思っている。
ブログの構成上では、教導隊の飛び方がキレキレだったと書いたが、実は他の飛行隊の展示飛行もキレキレで、何年か前までの航空祭より、飛び方の練度が確実に上がっているような印象を受けた。
何年か前までは珍しかったF15のナイフエッジも、標準演目となりつつある。
とても頼もしいことだ。
ここ小松基地は、F15の飛行隊を3つも擁する全国屈指のイーグルの巣で、航空祭もイーグル祭りの様相を呈するのが大きな特徴だ。
しかし、F15も導入から相当年が経過して、徐々に退役の兆しが見え始めている。
航空祭後の今年10月19日、防衛省は小松の2飛行隊40機を2028年までにF35Aに配備転換することを明らかにした。
イーグル祭りも、来年でついに見納めということになる。
F15の爆音を反芻しながら育った飛行機好きとしては寂しいかぎりだが、防衛上の案件なのでこればかりは仕方がない。
ここで気になるのは飛行教導隊だが、先述のF35A配備計画と同時に、教導隊のF15のうち8機を、27年度末までに能力向上型(近代化改修+能力向上改修)に置き換えることも併せて発表している。
なのでもうしばらくは、この極彩色イーグルの姿を目にすることができそうだ。
それにしても、開発からゆうに50年以上経過した、お世辞にも新しいとは言えないF15であるが、退役までの日に向けて、まんじりとカウントダウンしているばかりではないところが凄い。
外見こそ50年前の機体だが、その中身は各種改修を繰り返すことで、近い将来においても我国の主力戦闘機として運用されることが決定している。
いずれにしても、素晴らしいポテンシャルを持った名機であることは間違いない。
私の機材といえば、もう何年も更新することなく現状維持が続いている。
特にレンズの半分以上が経年のためメーカーの修理対応対象外となっており、いわゆる「壊れたら終わり」の状態だ。
画質も最新機種に比べ、相当ピントが甘かったりノイズが多かったりするのだが、AI画像処理など最新の技術を導入して、私なりの「近代化改修」を施しながら頑張っている。なんとなくF15と状況が似ていると言えなくもない。
いろいろ頑張ったところで、最新のカメラには到底かなわないかもしれないけれど、それでもまだ立つ瀬はある。
「It’s not the plane, it’s the pilot.」
という言葉を借りるなら、
「It’s not the camera, it’s the photographer.」
だ。
まだまだ写真は退役しないつもりだ。
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