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競技開始から12分。
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全体的な削り出しから
より部分的な彫刻作業に移行。
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14分経過。
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砕氷も作業の支障になる量になってきた。
平田さんが咄嗟に足払いして、作業エリアを確保する。
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16分。
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20分。
平田さんの手は一瞬たりとも止まらない。
スタートから変わらぬ勢いで動き続ける。
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犬の形が見えてきた。
冬の氷彫刻と違って周りは常温、
それもかなり高い温度だ。
冷凍庫から出した時は固く締まっていた氷も、
常温にかなりの時間晒されて緩み
柔らかい氷に変化している。
急いで彫らなければならないが、
力加減を誤ると割れてしまう恐れもある。
そのさじ加減が難しい。
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24分経過。
椅子の背もたれをくり抜く。
背もたれは一枚板ではなかった。
デザイン画では分からなかった部分だ。
薄々予想はしていたものの、
やはり恐ろしく手数が多いことが判明する。
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25分経過。
競技時間は50分間なので、
ここが折り返し地点となる。
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26分。
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27分。
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29分経過。
立ててあった氷を横に寝かせる。
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31分経過。
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とめどなく吹き出る汗がと雨が混じり合い
頬を伝って滴り落ちる。
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34分経過。
今回、運営スタッフとして参加している加瀬秀雄さんが登場。
運営スタッフは会場を巡回しながら、
砕氷の片付けや作品の移動など、
必要に応じて選手をサポートする。
加瀬さんは松本や旭川の大会で
平田さんと何度もタッグを組んできた。
平田さんの氷彫刻における諸事を
阿吽の呼吸として理解している人だ。
登場のタイミングもやはり絶妙。
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「加瀬さん、今何分!?」
平田さんから質問が飛ぶ。
「もうちょっとで40分!」
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36分経過。
平田さんの作業のタイミングを見計らって
加瀬さんが素早く砕氷を除去する。
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37分。
寝かせてあった氷を移動。
すかさず加瀬さんがサポートに入る。
いくら削り込んであるとはいえ、
もともとは135キロあった氷だ。
少なく見積もっても
50キロを下回ることは考えられない。
重さ的にも一人で持ち上げることは不可能だし、
複数の力点を使って持ち上げなければ
せっかくの彫刻が壊れてしまう恐れがある。
さらに、ただ闇雲に持ち上げるのではなく
どこをどう持ってどう持ち上げるか、が重要だ。
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37分経過。
無事に彫刻が台座の上に載る。
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すぐに作業を再開。
38分が経過。
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39分。
雨が強くなってくる。
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ノコギリで横方向の力を加えると
台座の上で彫刻がわずかに回転する。
冬の氷彫刻と違って気温が高いので、
氷同士は簡単に接着されない。
彫刻は台座の上にあることはあるが、
ただ載っているだけという状態だ。
力加減を誤れば、落下、破損となる。
ここでさらに懸案事項があった。
彫刻の土台部分を御覧いただきたい。
デザイン画では、
椅子の脚の下に四角い土台が備わっているが、
現物にはその土台がほとんどない。
後から平田さんに聞いた話だが、
競技開始数分の時点で、
この土台部分を削りすぎてしまったという。
斜めになったバランス的にも難しい彫刻の荷重を、
予定よりも小さくなった土台で受け止めることになった。
各部の重量バランスが少しでも狂えば
崩壊してしまう危険が出てきた。
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41分経過。
競技時間残り10分を切る。
選手たちのテンションも最高潮に達する。
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43分。
平田さんがひざまずいて作業している。
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なんと、あれほど小さくなってしまった土台部分を
さらに削っている。
この面積でも全重量を支えきれるとの判断か。
長年の経験に裏付けられたテクニックだと思うのだが、
見ている側としては
とにかく恐ろしいの一言に尽きる。
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ラストスパートに入る。
だが、最初からずっとラストスパートだったと言えなくもない。
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46分経過。
残り4分。
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ここで平田さんが初めて手を止めて彫刻から一歩離れ、
全体のバランスを確認する。
長丁場の大会であれば頻繁に行われる動作だが、
今回はこれが最初で最後だった。
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残り3分。
細かい場所に手を入れていく。
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残り1分。
運営スタッフから「間もなく終了」のコール。
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残り1分を切った。
平田さんの右手にはノコギリ、
左手にはノミが握られている。
作業が終わる気配はない。
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残り数秒。
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ここで「競技終了」のコール。
その声と同時に、
傍らに置いてあったペットボトル入りの水を
彫刻の上から盛大に振りまく。
競技中ずっと、作業場の片隅に
ミネラルウォーターのペットボトルが2本、
手付かずで置いてあった。
それがなぜ、「蓋が開いた状態」だったのかを理解する。
氷彫刻制作の最終工程「表面処理」。
氷の表面についた細かいキズや、
氷屑を解かして透明感を増すための作業だ。
冬の大会だとバーナーで炙ったり、ぬるま湯をかけたりするが、
常温下の本大会では「水」だ。
ペットボトルの水は
そのためのものだった。
それもおそらく、
競技終了と同時に作品へ「ぶっかける」ことは
当初から計画に織り込み済みだったのだ。
凄まじいな、と思う。
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11時50分、
氷彫刻『ボールと追いかけっこ』
完成。
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競技を終えた平田さん。
なかば放心状態で立ち尽くす。
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これがどれほど過酷な全力疾走だったのか、
その表情が物語っている。
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