平田浩一 加瀬秀雄 氷彫刻 『飛翔 ~大空に羽たく鳳凰~』【8】

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午前4時30分。

吹雪。

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作業はラストスパートに入り、
気力も体力も限界に近づく。

そこに追い打ちをかけるような吹雪。

今回ばかりは
大きな天候の崩れがないまま
朝を迎えられるとばかり思っていた。

しかし、その期待はもろくも打ち砕かれる。

松本氷彫フェスにはおそらく、
天気の魔物が棲んでいる。

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吹雪の中、作業が続く。

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松本城も
激しい雪に霞む。

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雪はあっという間に辺りを白く染める。
帽子の上にも、服の上にも
降り積もる。

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生まれたばかりの鳳凰。
降りしきる雪のせいで
舞い上がっていくように見える。

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さらに猛吹雪となる。

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加瀬さんは
彫刻裏側の表面処理にあたっている。

氷は透明な素材なので、
裏面が荒れていると
光がうまく透過せず、
表面の彫刻の良さが引き出せないからだ。

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平田さんは尾羽根の彫刻に入る。
この空中に乱れ舞う尾羽根の全てに
細かな筋を入れていく。

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午前5時。

製作終了まで残り1時間30分。

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気温は氷点下4度。

吹きつける雪と風で
体感温度は恐ろしく低く感じる。

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午前5時14分。

尾羽根の彫刻が完了する。

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土台への飾り彫り。

チェーンソーで、斜めの平行線を幾筋も入れていく。

定規も当てず、下書きもせず、
チェーンソーのフリーハンドで
正確な直線がバランスよく刻まれていく。

12時間彫り続けて、
最後にこの集中力である。

恐れ入る。

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ブロワーで削り屑を吹き飛ばし
細部の彫りをチェックする。

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細い氷鋸を使って、
羽根の隙間の削り屑を落とし、
さらに一枚一枚のエッジを立たせる。

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午前5時40分。
会場には徐々に観客が戻ってきている。

雪は止んだが、
辺りは一面の雪景色だ。

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総仕上げに入る。

平田彫刻を最終的に平田彫刻たらしめるのは
この総仕上げだと言ってもいい。

平田彫刻は「削って終わり」ではない。
彫りの工程が終わった後、
平田さんが全体をチェックし、
彫り足りないところ、バランスの悪いところを
修正していくのだ。

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修正は細部にわたる。

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午前6時。
隣のチームの作品がピンク色の照明で照らされる。
カラースポットでの照明は、作品が完成した証だ。

平田加瀬チームの作品は
まだ色がついていない。

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残り時間30分。

だが、徹底的に直す。
そこに妥協はない。

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おそらく、平田さんは時間ギリギリまで
作品の総仕上げにかかりきりになるだろう。

そこで、加瀬さんはすかさず作品の周囲の整備に入る。
見事なチームワークだ。

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午前6時12分。

ついに、最終工程である「表面処理」に入る。

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作品はすでに、造形として完成してはいるが、
氷の表面には無数の工具による切削痕があり、
半透明の「すりガラス」状になっている。

そこに炎を当て、表面のみを瞬間的に解かすことによって
細かな傷が消え、透明度の高い氷となるのだ。

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午前6時16分。

作業の途中で、
会場の照明スタッフから
カラースポットを当ててもいいか、という声が飛ぶ。

すでに夜明けが近い。
カラー照明できる時間は限られている。

平田さんが「OKOK!」とハンドサインを送る。
作品に、オレンジ色の光が当てられる。

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午前6時18分。
あともう少し。

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午前6時22分。
製作終了まで8分を残し、
作品が完成。

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この日の日の出は午前5時55分。

東の空はすでに白み
雲の端は暁色に染まり始めている。

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~ 【9】につづく ~

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