平田浩一 加瀬秀雄 氷彫刻 『飛翔 ~大空に羽たく鳳凰~』【4】

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午後11時。

ようやく、気温が氷点下に達する。

「10年に一度の大寒波襲来」の予報に
日本中が身構えていたこの夜、
あまりにも緩やか過ぎる気温の低下だった。

ともかく、
やっと氷が氷として形を保てる温度となったことに
ひとまず安堵する。

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観客もまばらになった。

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頭部のパーツのすぐ下に、
別の頭が取り付けられる。

生きものが互いに向き合うデザインのようだ。

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氷彫刻の作り方は製作者によって異なる。

大きな氷塊を組み上げてから全体的に彫っていく方法、
大まかなパーツを別々に作って、
最後に組み立てる方法など、様々だ。

平田彫刻の場合、製作の早い段階で
頭部などの主要なパーツを細部まで彫り上げる。
そして、その頭部を大きな氷塊の上に配置して、
そこから線を延長するように全体の形を彫っていく。

それはあたかも、一粒の種が芽吹き、
根を這わせていくような、
受精卵の胚が、
徐々に生物として造形されていくような、
不思議な光景なのだ。

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頭部を起点として、
筋彫りを氷全体に延長していく。

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うねるような曲線が
幾重にも描かれる。

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筋彫りの溝に沿って
チェーンソーの刃を入れていく。

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ノミで彫り込む。

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場所によっては
貫通させるところもある。

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設計図上では二次元だが
曲線と曲線に挟まれた面は
それぞれに高さが異なっている。

彫り間違えてしまえば
修正が効かない。

神経を使う。

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作品全体の形が
姿を現し始めた。

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午前0時。

製作開始から
5時間30分経過。

気温は氷点下1度をわずかに下回っている。

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平田さんが尾羽根を彫り込んでいた時、
加瀬さんは尾羽根の末端部分の接着に取り組んでいた。

細い末端部分は大きな塊から彫り出すよりも、
別のパーツとして作って、後から取り付けたほうが
無駄になる氷も少なく、削る時間も短縮できるのだ。

加瀬さんは残氷のひとつに
チェーンソーの刃を幾重にも入れている。
これは、氷の造形が目的なのではない。
このチェーンソーの下から吹き出される
削り屑こそが重要なのである。

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容器に集めた削り屑(通称「雪」)
に水を加えると「氷のパテ」が出来上がる。

接着された2個の氷の境界線には
表面近くに僅かな隙間が残っている。

隙間を放置すれば、そこから空気が入って透明感が損なわれたり、
最悪の場合、接着した氷が剥がれ落ちてしまうおそれもある。
その隙間を埋め、接着の強度を高めるのが「氷のパテ」なのだ。

氷のパテを施した様子。
元々氷なだけあって、目立たないのも大きな利点だ。

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設計図を確認し、
平田さんと打ち合わせをしながら
作業は進められる。

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アルミ板による接着面処理。

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下向きのパーツは
重みで脱落してしまうこともあるので
完全に氷結し、固定されるまで気が抜けない。

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長さのあるパーツも
接着が難しい。

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氷のパテで念入りに隙間を埋める。

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そのままの姿勢で
何分間も支え続ける。
だが、なかなか固まらない。
気温が高いのだ。

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最終手段として
コールドスプレーを使うことで
ようやく接着される。

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時計は間もなく
午前1時を回ろうとしている。

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~ 【5】に続く ~

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