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長野県松本市 国宝松本城氷彫フェスティバル
全国氷彫コンクール 2010 ~ 2017
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氷彫フェスティバルとの出会い
2010年1月23日。
「今夜、松本城で氷彫刻の大会があるんだよ、知ってる?」
白鳥が舞い降りる田んぼで、馴染みのカメラマンからそう教えられたのが全ての始まりだった。
「夜通しで氷彫刻を作る」のだというが、それが一体どういうことなのかはさっぱりわからない。
彫刻が完成するのは明け方だという。
その頃に行けば、なにか面白いものが見られるかもしれない。
完全なる興味本位、物見遊山を決め込んでいた。
1月24日の未明、眠い目をこすりながら私は松本城に出向いた。
会場に到着して驚いた。
煌々と照らすライト。
発電機の轟音。
チェーンソーや電動ドリルのけたたましい唸り。
その中をあくせくと動き回る何組もの制作者の向こうに、白く輝く、人の背丈をゆうに超える氷の彫刻が聳え立とうとしていた。
そこには、氷の彫刻という文字から受ける、冷たく静かなイメージとは真逆の世界があった。
即座に「これは凄い」と思った。
完成した氷彫刻は、どれも素晴らしい出来栄えだった。
見とれながらシャッターを切るうちに、これらの彫刻がどうやって作られたのか無性に知りたくなった。
「来年は夜のうちに来てみようかな」
そんなことを、何の気なしに思ったのだった。
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夜通し撮るということ
翌2011年の氷彫フェスティバルは、前日の夕方6時、制作開始から会場入りした。
当初の撮影プランは、様々なチームの制作をあまねくインターバルで撮影することで、「氷彫刻ができるまで」を追ってみよう、というものだった。
だが、十数組の制作現場を順に撮影していくのは至難の技だということがすぐに分かった。到底独りで撮りきれるものではない。
急遽、撮影の優先度を決めて、目に留まった2組をメインで追いかけることにした。
この時の2組が、現在も氷彫刻界でトップを走り続ける、平田親子、木村さんの両チームだ。
試みは結果的には上手くいった。この2組は金賞と銀賞を受賞し、その制作過程をブログで紹介することができた。
だが実は、この年の撮影には、悔やんでも悔やみきれない苦い思い出がある。
それは、「夜通し撮れていない」ことなのだ。
氷彫刻は、12時間もの長い時間をかけてゆっくりと成長する。
少しばかり目を離しても、大して変化はないだろう、と思った。
ぶっ続けの撮影にも少し疲れを感じている。ちょっと休憩しよう。
そう考えた私は、深夜になって、駐車場に止めた車にしばらく戻ったのだ。
3時間ほど経って会場に戻って、愕然とした。
氷彫刻は大変化を遂げている。
さっきまでただの氷塊だったはずの部分に、どうやったのかも分からないほど緻密な細工が施されている。
迂闊だった。
氷彫刻はゆっくり育っていくように「見える」だけだったのだ。
実際の変化は、電光石火の瞬間として訪れることを、この時知った。
だから、この年のブログ記事は、深夜の時間帯の写真がごっそり抜け落ちている。
失われた時間は帰ってこない。
撮れなかった瞬間は、二度と訪れることはない。
氷彫刻制作を見届けたつもりになっているだけで、これでは全然見届けたことになっていない。
ただでさえ制作者は、寒風吹きすさぶ中、不眠不休で氷を彫っているのだ。
こちらも生半可な撮り方では、彼らと釣り合わない。
何が何でも「夜通し」撮ろう。
そう心に決めたのは、この時からだ。
我ながら短絡的な思考に赤面するが、そうしないと気が済まないのだから仕方がない。この後、結局最後の大会まで、夜通し撮り続けた。
12時間耐久撮影は、体力気力の面でもかなりキツい。結果手元に残る2千枚余りの写真の選別と現像もキツい。それをブログに載っけてルポを書く。
ひと月もふた月もかかる。
傍から見れば、かなり馬鹿げて映るとは思う。
でも、氷彫刻が好きなのだから仕方ない。氷彫刻の世界を、皆に少しでも知ってもらいたくて仕方ないのだ。
もはや愚行ともいえる撮影だが、この撮影のお陰で私の写真に対する根性が鍛えられたのは確かだ。
撮れても撮れなくても滅多なことでは諦めない「粘着性カメラマン」に、より一層磨きがかかったものと自負している。
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氷彫刻師、平田親子のこと
生粋の氷彫刻師、平田謙三・平田浩一親子。
彼らに出会っていなければ、こうして氷彫刻を撮り続けることもなかっただろう。
これは私が撮った中で、平田さんが写っている最も古い写真だ。
撮影年は2011年。私が氷彫刻を初めて撮った時のものだ。
私はまだこの時、平田さんのなんたるかを知らずにいた。
また、この頃、すでに平田さんは、翼一面の羽根彫り込みなどの超絶技巧を駆使しているのが分かる。 その無知ぶりは写真にもよく出ている、というよりも、平田さんが写っている写真自体がほとんど無い。
この年浩一さんは父・謙三さんと組んで、鳳凰と女性像からなる『希望の未来へ』という彫刻を制作し金賞を受賞している。
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2011年 平田親子が制作した 『龍』 その卓越した造形に衝撃を受け、その後の密着撮影のきっかけとなる。
2016年 平田浩一 加瀬秀雄による 『飛翔 ~大空に羽たく鳳凰~』
2017年 平田浩一 加瀬秀雄による 『Crystal Fairy』
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その年によって、気温や天候のコンディションが異なり、過酷な環境の中での作業を強いられる年もあったが、平田さんはその都度、持てる技術をフルに発揮して素晴らしい彫刻を作り上げた。
その詳しいエピソードについては、過去記事をご覧いただけたらと思う。
松本の大会が終焉を迎え、来年からは平田さんの技を間近で見ることができなくなってしまうのは心底悔やまれる。
しかし、この大会がなくなっても平田さんは氷を彫り続けることに変わりはない。
私とて、これで平田さんを見納めにするつもりは毛頭ない。
鬼が笑うので来年のことは言わないでおくが、これからのことを、あれこれ画策している最中だ。
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氷彫コンクールの終焉に寄せて
よくよく考えると、氷彫コンクールのような競技は、どこを探しても見当たらない。
夜通し不眠不休で、体力知力を極限まで酷使しながら氷を彫り、出来上がった作品の芸術点を競う。
体育系とも文化系とも割り切れない、なんとも不思議な競技だ。
彼らの作品は、後世には残らない。
優れた絵画や通常素材の彫刻であれば、何百年も時を越えて生き続けることができる。
だが、彼らの作品は氷だ。
彫刻が完成したその瞬間から、少しずつ解けて水になり、やがて跡形もなく消え失せてしまう。
遥か後世の人類が、古代の地層から氷彫刻を発掘して、かつて腕の立つ氷彫刻師が存在したことを知る可能性は皆無なのだ。
それを知りつつ、氷彫刻師たちは全身全霊をかけ氷を彫る。
その姿に、私はいつも心打たれる。
氷彫刻の大会は、完成した作品ばかりに目を向けられがちだ。
しかし、その美麗な作品の背後には、氷彫刻師たちの壮絶な努力が積み重なっている。
夜通しの制作現場を一般客に公開することで、一体一体の氷彫刻にそういう物語があることを教えてくれたこの大会には、本当に感謝している。
その氷彫コンクールが、今回で終了となる。
いつかこの日が来るとは思っていたが、そのあまりにも早い到来に戸惑わずにはいられない。
温暖化による制作環境の悪化、主催者の高齢化など、終焉に至るまでには複合的な「大人の事情」があったと聞いている。
そういうマイナス要因の幾つかが、解決せずに今日まで来てしまったことは残念だ。
しかし、いつか状況は変わる。
マイナスはいつかプラスに転じる。
そうなると信じている。
もしも将来、状況が好転したなら、是非この「氷彫コンクール」を復活させて欲しい。
新たに生まれ変わった氷彫コンクールを撮影できる日が来ることを、心から祈っている。
最後に、これまでこの氷彫コンクールの開催に携わってこられた多くの皆様と、素晴らしい氷彫刻を制作された多くの皆様に心から御礼申し上げます。
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2017年3月9日
球 わかば
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球註:氷彫コンクールは2018年から「チャンピオンシップ」と名前を変えめでたく復活しています。
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