平田浩一 加瀬秀雄 氷彫刻 『Crystal Fairy』【5】

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まもなく22時。

露店も店じまいとなる。

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同時に、観客の足が急速に遠のいて
会場は閑散とした雰囲気に変わる。

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22時。

観客がいようといなかろうと
制作作業は淡々と続く。

平田さんは2枚目の氷板の加工に取り掛かっている。

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枝分かれするような造形で
かつ、その裏表に細工を施すには
かなりの手間がかかる。

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22:20

2枚目の氷板のスライスを開始。

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今回も失敗は許されない。

慎重に刃を進めていく。

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氷板は大きいので、
刃が広いチェーンソーであっても
1回でスライスすることはできない。

片方に刃を入れ終わると
反対側からも刃を入れる。

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氷板の正中線を外さないよう
ゆっくりと刃を進める。

もしもチェーンソーの刃が
わずかでも傾けば、
氷板はいびつな三枚おろしになってしまう。

平田さんも慎重にならざるをえない。

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20:24

2枚目の氷板をスライス完了。

完全な平面で分割されている。

5分に満たないような作業だが
ハラハラする緊張感を味わう。

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気温は氷点下5度に達しようとしている。

いつになく冷え込んできた。

氷彫刻にとっては適した環境だが、
制作者は寒さに耐えながらの作業を強いられる。

なんとも皮肉なものだ。

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制作開始から5時間が経過。

平田さんは氷板の加工、
加瀬さんは氷の切り出しを続けている。

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時折、図面を見ながら
小さな打ち合わせが行われる。

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そしてまた、作業を続ける。

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完成した氷彫刻は華麗だが、
そこに至るまでの過程は
派手さには遠い、
地道な作業の連続だ。

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氷彫刻制作は
忍耐の世界なのだ。

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23:00

例年であれば、
時間とともに僅かづつでも
彫刻が大きくなっていく。

だが今年は、
氷を分割しての作業が長く続いているので
見た目の変化が乏しい。

作業が進進んでいることは確かなのだが、
傍目にはなかなか進捗状況が掴めない。

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23:30

新たな動きがあった。

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平田さんが、
発泡スチロール製の箱から
ドライアイスを取り出す。

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小さく割ったドライアイスを
加工済みの氷板の縁に載せていく。

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1気圧下において、
摂氏0度を下回ると、水は氷になる。
だが、氷は常に0度なわけではない。
周囲が氷よりも冷たければ
氷の温度もそれに従って下がる。

つまり、マイナス1度の氷もあれば、
マイナス20度の氷もあるのだ。

冷凍庫から出したばかりの氷を手にとった時、
手のひらに張り付いて、痛い思いした経験は
誰しもあるだろう。
だが、常温にしばらく放置した氷は
手に張り付くということはない。

つまり、
より冷えた氷は
それ自体の冷気によって
触れたものを凍らせる力が強くなるのである。

この手法には、
ドライアイスのマイナス79度という極低温によって、
氷にさらなる凍結力を与え
氷同士の接着力を高めようとする狙いがあるのだ。

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今までの大会でも、
このドライアイスは何度も登場した。

しかし、その大部分は
気温が高く、氷が解けだしてしまうような状況で
使われることがほとんどだった。

ところが今回は、
決して氷が解け出すことのない寒さの中にいる。
氷同士が普通にくっつく状況だ。

そこにあえて、
平田さんがドライアイスを使うのはなぜなのか。

その理由が、
この後、徐々に明らかになっていく。

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― 【6】に続く ―

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