平田謙三 平田浩一 氷彫刻『2015年 飛翔』【5】

【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】

.

翼の先端の切削が始まる。

.

.

これまでよりも、より薄く、
より大きな曲率で削っていく。

.

.

その浩一さんが乗って作業しているのは
ビール箱を3つ重ねた即席の足場。

傾いているうえに、浩一さんの動きに合わせて
グラグラと揺れ動く。
いつ倒れやしないかと見ている方はハラハラするが、
決して倒れることがない。

いつ見ても謎の技術だ。

.

.

チェーンソーで荒削りした表面を
さらにハンドグラインダーで整えていく。

.

.

頭から細氷をかぶりながらの作業。

.

.

表面を整え終えた氷に向かって、
浩一さんがまた手を空中に這わせている。

何をイメージしているのか。

.

.

そこから、これまでとは別の作業が始まる。

翼面に、くまなくドリルビットを走らせる。

.

.

作業時間はおよそ10分。

そこに現れたのは衝撃の造形だった。

.

.

なんと氷の翼には
いつの間にかびっしりと羽根が生えている。

左翼の羽根彫りを終えると、
すぐに右翼にとりかかる。

まず、翼前縁部分の筋彫りを施す。

.

.

その翼前縁に沿って
羽根を一枚一枚刻んでいく。

細いドリルビットを斜めに入れて
あたかも羽根が生えているように彫り出す。

.

.

実際の鳥と同じように、
場所による羽の形の変化も
ちゃんと再現されている。

.

.

今までの作業とは違い、
ひとつ彫り間違えれば、翼もろとも交換するしかない。
もちろん、材料にそんな余裕はない。

決して失敗は許されない。

.

.

羽根の形を彫り出すことだけではない。
それぞれの羽根の表面を凹状に削って
「羽根の薄さ」を再現していく。

その上、部分的にではない。
翼全体の羽根一枚一枚全てを
ドリルビットの種類を使い分けながら
薄く削っていく。

.

.

息を止めたくなるような繊細な作業が続く中、
浩一さんが、チェーンソーを手にして
翼に向かって振りかざす。

.

.

チェーンソーの荒々しい刃先が削り出しているのは
風切羽根だ。

大まかな作業はチェーンソー、
細かな作業はドリルというイメージが覆される。
一見荒々しい工具も、
浩一さんの手にかかれば精密加工機械に変わる。

.

.

けたたましいチェーンソーの唸りのなかで
次々と風切羽根が彫り出されていく。

もちろん、図面はない。
どこにどんな形の羽根が何枚生えているのか。
浩一さんの頭のなかには
それが全部入っているらしいのだ。

迷うことも手を止めることもなく、
プログラムされた切削マシンの如き速さで
翼一面にみるみる羽根が刻まれていく。

.

.

風切羽根先端の丸みを出す。

.

.

さらに、ミノで余計な厚みを落とし
薄羽に仕上げていく。

羽根の折り重なる様子も完璧だ。

.

.

これで終わりではない。
さらに細いドリルビットを使って、
羽根表面の細かい凹凸を刻み込む。

.

.

執拗なまでのこだわりぶり。

.

.

ここでもやはり、
場所によって、筋の方向や本数、深さを変化させている。

.

.

ひょっとしたら、観客は気づかないかもしれない。
しかし、手は抜かない。
執念というしかない。

.

.

翼の次は、
胴体と頭部にも羽根を彫り込んでいく。

.

.

.

.

外からは見えない首の下への彫り込み。

.

.

羽根彫り作業開始から約1時間、
大ワシの全身は
薄い氷の羽根でくまなく覆われた。

.

.

風切羽根の先端。

.

.

それは確かに風を掴み、
空へ駆け上がっていく大ワシの
しなやかな翼の切先だ。

.

.

午前0時。
気温マイナス2度。

分厚い雪雲はいつしか切れ、
下弦に近い月が顔をのぞかせている。

.

【6】に続く

.

【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】

 

「氷彫刻」の関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です