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完成した氷像。
2体大小のティラノサウルスが躍動する。

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頭部。
歯の1本1本、
舌の動きまで彫り込まれている。

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横向きの、いわゆる「準3D」ではなく、
完全立体として造形された頭部が観客を睨む。
この作品の白眉だ。

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実物のティラノサウルスの体長は
最大で13メートルというから、
この氷像は約4分の1スケールで作られていることになる。
近くで見ると、
本当に大きい。

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通常なら競技終了後すぐに
カラー照明によるライトアップが始まるのだが、
今年はなんと、会場の明かりが全消灯。
氷像の前でプロポーズ、という
サプライズイベントが始まった。
(おめでとうございます)

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サプライズイベントの間、
会場内は地明かりのみとなる。

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闇に浮かぶ氷像。
初めて見る光景だが、
これがとても良かった。
氷の冷たさや繊細さが
この明かりだとよく分かる。
できたら、次回もお願いしたいくらいだ。

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再び照明が戻った会場。
制作者の平田さんと楞谷さんで記念撮影。
一晩中必死の形相だった二人に
ようやく笑顔が戻る。

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平田さんに至っては、
三日三晩、氷を彫り続けたのだから
その疲労は計り知れない。
やはり氷彫刻はアートである以上に
アスリートの世界なのだ。

.
カラー照明でのライトアップが始まる。
『白亜紀の王者』は緑色に。

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また会場に
大勢の人が集まりだす。

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夜と朝の間にある
わずかな隙間に現れる
夢のような光景。

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すぐに朝が近づいてくる。

.
何度経験しても、
この朝の時間帯は現実感に欠ける。
この優美な氷像の佇まいと、
不眠不休で戦った汗みどろの12時間が
頭の中でどうしても繋がらないからだ。
ただ、身体の芯まで染み込んだ疲れと、
霜だらけになった機材が
あの夜の実在を物語っている。
そしてまた、
自分はなにか凄いものを見たのだ、
という気持ちになる。

.
朝の光とともに
氷彫刻師たちは姿を消し、
そこには美しい氷像だけが残される。
氷像はただ美しく、
彼らの夜通しの苦闘について多くを語らない。
だからこそ私は伝えたい。
この氷像が
どう生まれたのか、ということを。

.
平田浩一・楞谷貴志 作
氷彫刻『白亜紀の王者』は
国宝松本城氷彫フェスティバル2023
チャンピオンシップにおいて
銀賞を受賞した。
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― 完 ―
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撮影機材
-
- EOS5D Mark IV
- EF70-200mm F2.8L IS II USM
- EF300mm F2.8 L IS USM
- SIGMA 24-70 F2.8 DG OS HSM
画像処理
-
- TOPAZ PhotoAI
.
あとがき
結局のところ、平田さんは3晩連続で氷を彫った。
制作の様子を御覧いただいて分かるとおり、氷彫刻はその優美さからは想像もつかない、肉体を限界まで酷使する重労働を経て完成される。
平田さんが松本入りしてからの2日間は、特に単独での作業だったから、力仕事の殆どを自前でこなさなければならなかった。
特別展示用の氷像は、本戦とは違ってタイムリミットこそないが、かといって気の赴くまま時間をかけて彫っていては最も大切な本戦のコンディションに支障が出かねないので、やはり本戦に準ずるような手早さが必要になってきてしまう。
ちなみに、平田さんが1晩めに松本市美術館の中庭で『エッフェル塔』を彫った時、美術館の警備システムの仕様上、22時を過ぎると警報がなってしまうことが判明した。
特別展示用の制作なのでマイペースにやろうと思っていた平田さんだが、いきなりのタイムアタックを余儀なくされたのだった。
なんとか氷のエッフェル塔を完成させた平田さんは、降って湧いたタイムアタックの疲労も完全には癒えぬまま、2晩めの『キリン』の制作に入った。
これまた、時折雪が降りしきる中、8時間近くかけて単独で氷像を作り上げた。
その翌日、通算3晩目に臨んだのが徹夜のチャンピオンシップ本戦なのだ。
私も年齢的に、平田さんを一回りくらいの差で追いかけているから、年相応の身体コンディションというものを、自分の延長線上になんとなく想像できる。
不惑天命の年頃ともなれば、いくら日常的に鍛錬していたとしても、20代30代のような、青天井の体力を発揮するのは難しい。
「もう勘弁してくれ」と泣きを入れてくる身体を気力でいなしながら、限界ぎりぎりのラインをなぞっていくしかないのだ。
そう考えると、平田さんは今まさに精神力の人であろう。
本戦だけに的を絞って、気力体力を温存することもできなくはない。
しかし、そこに彫ってほしいという依頼があれば、やはり平田さんは無理をしてでも彫るのである。
おそらくそこには、我々の想像を遥かに超える、氷を彫ることへの熱い衝動があるのだろう。
平田さんの精神力の源はその辺にルーツがあるような気がするのだ。
そういえば、平田さんと話をしていて強く感じることがある。
平田さんの話の中にはよく、「氷彫刻業界のためになれば」という単語が頻出する。
そこに透けて見えるのは、他の氷彫刻師たちや氷彫刻の団体、氷彫刻に関わるイベント、つまりは「氷彫刻業界」全体への熱い想いだ。
自分の氷彫刻を追究するだけでなく、自分が氷彫刻に携わることで氷彫刻業界全体のメリットになれば、という思いが強いのである。
切迫している自分の制作時間を削ってでも、テレビ取材に応えたり、他チームのサポートに入ったりする姿は、平田さんのそういう想いを端的に表している。
『白亜紀の王者』完成後、平田さんは「ちょっと荷物を車に置いてきます」と言って、一旦会場を後にした。
しかしその後、いつまで経っても平田さんは会場に姿を見せない。
メールしてみても、返事はなかった。
平田さんだけでなく、相方の楞谷さんも、そして加瀬さんすらも行方が分からなくなってしまっていた。
なにか特別な事情で、すぐに帰らなくてはならなくなってしまったのだろうか。
ついに私も諦めて、帰路につくことにした。
松本城公園を出て、車に向かって歩いていた時のことだった。
ふと目を向けたとある駐車場の一角に、見覚えのある車を見つけた。
平田さんの車だ。
車の中に人影は見えなかったが、なぜかエンジンはかかっているようだ。
私は不思議に思い、車に近づいて中を覗き込んだ。
そこに、平田さんはいた。
平田さんだけではない。楞谷さんも、加瀬さんもそこにいた。
限界まで倒した座席に埋もれるようにして、全員眠り込んでいた。
まさに、「力尽きて」いたのだった。
そのあまりの光景に声すらかけることができず、私はそっと平田さんの車を離れた。
そして改めて、氷彫刻の壮絶さに思いを馳せたのだった。
「うわー、銀賞かー!」
朝を迎えた会場で、『白亜紀の王者』の前に「銀賞」のプレートが掲げられた時の平田さんの悔しそうな表情が忘れられない。
入賞作品ともなれば、どれも卓越した技術を持って作られていて、素人目には甲乙つけ難いことが珍しくない。
それはさながらオリンピックのメダル争いと同じく、神々がイス取りゲームしているような異次元の戦いなのだ。
序列などつけなくても、その素晴らしさは十分に伝わってくる。
だが、平田さんは「勝ち」にこだわる。
ナンバーワンにならなくてもいい元々特別なオンリーワン、などという甘っちょろい歌が流れる雰囲気はそこにない。
それが平田さんの氷彫刻だ。
アスリートなのである。
また、平田さんはゴールテープに向かって全力で突っ込んでいくだろう。
そう思うと、次の大会が楽しみでならない。
2023年の暮れ北國新聞の記事で、今回平田さんとタッグを組んだ楞谷さんが、毎年恒例となった「干支の氷彫刻」を彫ったことが報じられていた。
元日の能登半島地震で、勤務するホテルも被災されたとのことで心配だが、また持ち前の腕を振るって、素晴らしい氷彫刻を披露していただけることを楽しみにしている。
最後に、今回もチーム平田をサポートしつつ、氷彫刻について多々ご教示くださった加瀬秀雄さん、毎年遠方から駆けつけて一緒に撮影してくれるあんじゃい君(ご栄転おめでとう!)、大会スタッフの皆様、そしてこの大会に関わった全ての方に感謝申し上げます。
2024年1月
大変遅ればせながら
球わかば
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- 平田謙三 平田浩一 氷彫刻『龍』【6】 (2011年)
- 平田謙三 平田浩一 氷彫刻『龍』【7】 (2011年)
拝見するのが遅くなりました。今回も氷の感触を味わいながら感動して拝見しました。
現場での不安からくるシャッター数と現像時の枚数の虚脱感がわかる気がしました。
いつも素晴らしい画を有難うございます。地震もあり大変な時期の開催と撮影だったと
思います。京都でも結構揺れましたので。
今回の撮影もお疲れさまでした。
ご自愛いただき、これからも楽しませていただきます。
叶雅夫さん
ご無沙汰しております。
ご覧いただきありがとうございました。
毎度毎度、冗長な記事ですがご容赦ください、と言いつつまた今年の記事を書いています。
しかも今年はもっと長くなってしまうかもしれず、頭を抱えています。
巨大地震だったので、いろいろと変更があるかもと危惧していましたが、なんとか無事に開催され安堵しています。
この記事に出てくる楞谷さんは富山県魚津市のホテル勤務なんですが、ホテルのWEBサイトを見ると地震の揺れでエレベーターが故障したそうです。
長野県はそれほどの被害はありませんでしたが、実家の父母はかなり揺れたので表に飛び出したと言っていました。
地震大国に住む身ですので、いつか地震の洗礼を受けることは重々承知ですが、やはり起こらぬよう祈るばかりです。
冬と春を行ったり来たりの気候ですので、どうぞご自愛ください。